企業の不祥事や不正が報道されるたびに、
「なぜ社内で気づけなかったのか?」
「チェックする仕組みはなかったのか?」
と疑問に感じたことはないでしょうか。
こうした問題を未然に防ぐために、多くの企業が導入しているのが 内部監査 です。
内部監査は、外部の専門家による監査とは異なり、企業内部の立場から業務やルールを点検する仕組みです。
「内部の人がチェックして、本当に意味があるの?」
「会計監査や監査役監査とは何が違うの?」
そんな疑問を持つ人も多いかもしれません。
しかし、内部監査は単なる不正チェックではなく、業務のムダやリスクを洗い出し、組織をより健全に成長させる役割も担っています。
この記事では、内部監査の基本的な考え方から、他の監査との違い、具体的に何をチェックするのかまでを、初めての人にもわかりやすく解説していきます。
内部監査とは何か?
内部監査とは、企業が自らの業務や組織運営の状況を、社内の立場から点検・評価する仕組みのことです。
外部の専門家が行う会計監査とは異なり、内部監査は企業内部に設けられた部門や担当者によって実施されます。
法律で一律に義務づけられている制度ではありませんが、上場企業や一定規模以上の企業では、リスク管理やガバナンス強化の観点から導入されているケースが一般的です。
内部監査の目的は、不正を見つけて責任を追及することではありません。
業務が社内ルールどおりに行われているか、問題やリスクが放置されていないかを確認し、組織全体をより良くするための改善につなげることにあります。
● 内部監査の基本的な定義
内部監査は、一般的に次のように定義されます。
- 業務の適正性・効率性を確認する
- 法令や社内規程が守られているかを点検する
- 内部統制が有効に機能しているかを評価する
つまり内部監査は、「正しく処理されているか」だけでなく、「このやり方は本当に合理的か」「リスクは見逃されていないか」といった点まで含めてチェックする仕組みです。
● なぜ「内部」による監査が必要なのか?
内部監査が重視される理由の一つは、業務の実態を最もよく知っているのが社内の人間だからです。
外部監査では、限られた期間や資料をもとに判断するため、日常業務の細かな運用までは把握しきれない場合があります。
一方、内部監査であれば、現場の業務フローや実際の運用状況を踏まえたチェックが可能です。
また、「いつ監査が入るかわからない」という意識が働くことで、不正やルール逸脱を未然に防ぐ 抑止効果 が期待できる点も、内部監査の重要な役割といえます。
内部監査の目的と役割
内部監査は、「問題を見つけて指摘すること」そのものが目的ではありません。
本来の役割は、企業が健全に運営され続けるための土台を整えることにあります。
ここでは、内部監査が担っている代表的な目的と役割を整理していきます。
● 不正・不祥事を未然に防ぐ
内部監査の最もイメージしやすい役割が、不正や不祥事の予防です。
- 経理処理が特定の担当者に集中していないか
- 承認手続きが形だけになっていないか
- 権限の分離が適切に行われているか
こうした点を定期的にチェックすることで、不正が起きやすい環境そのものを改善していきます。
また、「内部監査が入る可能性がある」という意識は、従業員にとって自然な 牽制(けんせい)効果 となり、不正の抑止にもつながります。
● 業務のムダや非効率を見つける
内部監査は、不正防止だけの仕組みではありません。
日常業務を見直すことで、ムダや非効率な業務プロセスを発見する役割も担っています。
たとえば、
- 同じ内容のチェックが何重にも行われている
- 昔からの慣習で続いている不要な手続き
- IT化できるのに手作業で続けている業務
こうした点は、現場にいると「当たり前」になりがちですが、内部監査の視点を通すことで、改善のヒントが見えてきます。
● 内部統制が機能しているかを確認する
企業には、ルールやマニュアル、承認フローなど、さまざまな内部統制が整備されています。
しかし、それらが 実際の業務で正しく機能しているかどうか は、別問題です。
内部監査では、
- ルールどおりに運用されているか
- 形だけのチェックになっていないか
- 現場に合わないルールになっていないか
といった点を確認し、必要に応じて改善提案を行います。
このように内部監査は、「ルールを守らせる存在」ではなく、ルールが生きた仕組みとして機能するよう支える存在 といえます。
内部監査は何をチェックするのか?
内部監査というと、「細かい書類をチェックするだけ」という印象を持たれがちですが、
実際には企業活動のさまざまな領域が監査対象となります。
ここでは、内部監査でよくチェックされる主なポイントと、監査の進め方を整理します。
● 主な監査対象の例
内部監査の対象は、会社の状況やリスクに応じて決められますが、代表的なものは次のとおりです。
- 会計・経理業務
- 仕訳や支払処理が適切に行われているか
- 不正やミスが起きやすい構造になっていないか
- 業務プロセス(営業・購買・製造など)
- 業務フローがルールどおり運用されているか
- 権限や役割分担が適切か
- コンプライアンス(法令遵守)
- 法令違反につながる行為がないか
- 社内規程が現場で理解・遵守されているか
- 情報セキュリティ・個人情報管理
- 情報漏えいのリスクがないか
- IT管理やアクセス権限が適切か
このように、内部監査は「数字」だけでなく、人・仕組み・運用全体を見ていく点が特徴です。
● 内部監査の進め方(基本的な流れ)
内部監査は、場当たり的に行われるものではなく、一定の手順に沿って実施されます。
一般的な流れは次のとおりです。
- 監査計画の策定
- どの部署・業務を監査するかを決める
- 事前調査・資料確認
- 規程やマニュアル、過去の監査結果を確認
- ヒアリング・現場確認
- 実際の業務内容や運用状況を確認
- 問題点の整理・評価
- リスクや改善点を洗い出す
- 監査結果の報告・改善提案
- 経営層や関係部署へ報告
- フォローアップ
- 改善が実行されているかを確認
重要なのは、指摘して終わりではない という点です。
内部監査は、改善が実際に行われているかを確認するところまで含めて役割とされています。
内部監査と他の監査との違い
監査と一口に言っても、企業にはいくつかの種類の監査があります。
内部監査を正しく理解するためには、他の監査と何が違うのかを整理しておくことが重要です。
ここでは、特に混同されやすい「会計監査」「監査役監査」との違いを見ていきます。
● 会計監査との違い
会計監査は、外部の公認会計士または監査法人が行う監査です。
主な目的は、財務諸表が正しく作成されているかを第三者の立場で確認することにあります。
一方、内部監査は社内組織によって実施され、対象も会計に限りません。
主な違いを整理すると次のとおりです。
- 実施主体
- 会計監査:外部の専門家
- 内部監査:社内の監査部門・担当者
- 主な目的
- 会計監査:財務情報の信頼性確保
- 内部監査:不正防止・業務改善・リスク管理
- 対象範囲
- 会計監査:会計・財務中心
- 内部監査:業務全般・内部統制・コンプライアンス
このように、会計監査は「外からチェックする監査」、内部監査は「中から組織を見直す監査」と考えると理解しやすいでしょう。
● 監査役監査との違い
監査役監査は、会社法に基づいて設置される監査役が行う監査です。
主に、取締役の職務執行が適切に行われているかを監督する役割を担います。
内部監査との違いは、立場と役割の重心にあります。
- 監査役:経営を監督する立場
- 内部監査:経営を補助し、改善につなげる立場
内部監査部門は、監査役や取締役会と連携しながら、より実務に近いレベルでチェックや改善提案を行うケースが一般的です。
● なぜ複数の監査が必要なのか
それぞれの監査には、役割と得意分野があります。
- 外部からの客観性を担保する会計監査
- 経営を監督する監査役監査
- 日常業務に深く入り込む内部監査
これらを組み合わせることで、一つの監査だけではカバーしきれないリスクを補い合う仕組みが成り立ちます。
内部監査は、その中でも「現場に最も近い監査」として、企業の自浄作用を高める重要な役割を果たしています。
内部監査のメリットと限界
内部監査は、企業運営にとって非常に有効な仕組みですが、万能というわけではありません。
ここでは、メリットと同時に限界や注意点も整理しておきます。
● 内部監査のメリット
内部監査を導入することで、企業は次のような恩恵を受けることができます。
- 問題を早期に発見できる
- 小さなミスや兆候の段階で気づける
- 大きな不祥事に発展する前に対応できる
- 不正に対する抑止力が働く
- 「見られている」という意識が生まれる
- 不正が起きにくい環境づくりにつながる
- 業務改善につながる
- ムダや非効率な業務が見える
- 現場目線の改善提案ができる
- 組織の透明性が高まる
- ルールや責任の所在が明確になる
- ガバナンス強化につながる
内部監査は、単なるチェック機能ではなく、企業を強くするための仕組み といえます。
● 内部監査の限界・弱点
一方で、内部監査には注意すべき点もあります。
- 完全な独立性を確保しにくい
- 社内組織である以上、人間関係や組織の力関係の影響を受けやすい
- 経営層の姿勢に左右される
- 指摘が軽視されると形骸化しやすい
- 改善が実行されないリスク
- 「やっているだけ」になる危険性
- 書類チェック中心で実態を見ない
- 毎年同じ指摘を繰り返すだけになる
こうした限界を補うためにも、内部監査は 監査役監査や会計監査と連携して運用すること が重要になります。
どんな企業に内部監査が向いている?
内部監査は、すべての企業に必ず必要というわけではありません。
企業の規模や組織体制によって、必要性や有効性は変わってきます。
ここでは、内部監査が特に重要になるケースと、小規模企業の場合の考え方を整理します。
● 内部監査が特に重要な企業の特徴
次のような企業では、内部監査の重要性が高くなります。
- 組織規模が大きい企業
- 部署や拠点が多く、経営者の目が届きにくい
- 業務が複雑な企業
- 承認フローや権限分担が入り組んでいる
- 業務の属人化が起きやすい
- 上場企業・上場準備企業
- ガバナンスや内部統制が強く求められる
- 過去に不正やトラブルを経験した企業
- 再発防止の仕組みづくりが必要
このような企業では、内部監査が「保険」ではなく、経営インフラの一部として機能します。
● 小規模企業・中小企業の場合はどう考える?
一方で、従業員数が少ない企業では、専任の内部監査部門を設けるのが現実的でない場合もあります。
その場合は、
- 経営者自身による定期的な業務チェック
- ダブルチェックや権限分離の工夫
- 外部専門家(税理士・社労士など)の活用
といった方法で、内部監査の考え方を部分的に取り入れることも可能です。
重要なのは、「内部監査部門を置くかどうか」ではなく、自社のリスクに目を向け、見直す仕組みを持っているか という点です。
まとめ|内部監査は「自浄作用」を高める仕組み
内部監査は、企業が自らの業務や組織運営を見直し、問題やリスクを早い段階で発見・是正するための仕組みです。
外部の専門家が行う会計監査や、経営を監督する監査役監査とは異なり、内部監査は 現場に最も近い立場から企業を支える監査 といえます。
不正や不祥事を防ぐだけでなく、業務のムダや非効率を見直し、組織全体の質を高める役割も担っています。
一方で、内部監査だけですべてのリスクを防げるわけではありません。
他の監査と連携しながら運用することで、はじめてその効果を発揮します。
内部監査は、「問題が起きた企業が行うもの」ではなく、問題を起こさないために備える仕組みです。
自社の規模や状況に合わせて、無理のない形で取り入れていくことが大切です。



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