『歪笑小説』とは
『歪笑小説』(わいしょうしょうせつ)は、東野圭吾のユーモア短編集で、「笑小説」シリーズの第4作目にあたる。2008年から『小説すばる』に掲載された作品が収録され、2012年1月に集英社から文庫として刊行された。この作品は、集英社文庫の創刊35周年を記念したキャンペーンの第1弾として発売され、出版業界を舞台にブラックユーモア満載のストーリーが展開される。
物語の舞台は、架空の大手出版社「灸英社」。そこで働く伝説の編集者や売れない作家たち、さらには文学賞やゴルフコンペといった業界の裏事情がコミカルかつ皮肉たっぷりに描かれている。出版業界に関わる人々の喜びや苦悩、あるいは狂気を軽妙な筆致で描いた本作は、読者に笑いと驚きを提供すると同時に、業界の現実を垣間見せてくれる。また、収録作の一部は「東野圭吾ミステリーズ」として映像化されるなど、多方面で注目を集めた。
本書では、伝説の編集者と新人編集者のギャップや、作家と編集者の奇妙な関係、新人作家が抱える葛藤など、現代の出版業界に潜む滑稽さが鮮やかに描き出される。東野圭吾ならではのユーモアと皮肉を楽しめる一冊だ。
『歪笑小説』の あらすじ
本書には12篇の短編が収録されており、それぞれが出版業界の裏側をコミカルかつ皮肉たっぷりに描いている。
【伝説の男】
書籍出版部に配属された新人編集者の青山は、伝説の編集者・獅子取の営業スタイルに困惑する。獅子取は土下座や奇抜な手法を駆使し、数々のベストセラーを生み出してきた。しかし、その非常識ともいえる行動に青山は翻弄される。
【夢の映像化】
売れない作家・熱海圭介に、突然ドラマ化の話が舞い込む。これを機に一発逆転を狙う圭介だが、原作とはかけ離れた脚本に激怒。果たして映像化の夢は叶うのか?
【序ノ口】
新人作家・只野六郎(ペンネーム:唐傘ザンゲ)は、出版社主催のゴルフコンペに参加する。緊張の中で次々と大物作家に囲まれる六郎は、場の雰囲気に圧倒されつつも、何とか乗り切ろうと奮闘する。
【罪な女】
熱海圭介の担当編集者が美人の新人・川原美奈に交代する。彼女の熱意に圭介は心を奪われるが、やがて川原の真の目的が明らかになる。
【最終候補】
リストラ要員の会社員・石橋は、小説を書くことで人生の再起を図ろうとする。文学賞の最終候補に選ばれるも、その先に待っていたのは思わぬ現実だった。
【小説誌】
編集部見学に訪れた中学生たちから容赦ない質問攻めを受ける青山。中学生たちの純粋な疑問が、編集者としての青山を追い詰める。
【天敵】
スランプに陥った唐傘ザンゲの恋人・元子が原因ではないかと考える編集者・小堺。元子を「天敵」と見なす小堺は、彼女との対立に頭を悩ませる。
【文学賞創設】
灸英社が新設した「天川井太郎賞」を巡り、社内では候補作の選考が進む。文学賞の舞台裏で繰り広げられる駆け引きが描かれる。
【ミステリ特集】
雑誌のミステリ特集で、突然代役を頼まれた熱海圭介。ミステリの基礎も知らない彼に、大役を果たすことはできるのか?
【引退発表】
大御所作家の寒川心五郎が引退を宣言。しかし、その引退の理由には、寒川自身のプライドが絡んでいた。
【戦略】
売れない作家・熱海圭介の新作に注目した獅子取編集長。彼の斬新な売り込み戦略に圭介は翻弄される。
【職業、小説家】
唐傘ザンゲの結婚相手として現れた彼氏の職業が小説家であると知った元子の父・須和光男。職業としての「小説家」に不安を抱く彼が見たのは、想像を超える出版業界の実態だった。
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