『たぶん最後の御挨拶』とは
『たぶん最後の御挨拶』は、東野圭吾が自身の作家としての軌跡や日常を赤裸々に語ったエッセイ集です。1985年に史上二番目の若さで乱歩賞を受賞してデビューして以来、売れない時期や数々の賞に落選した苦難の日々、そして『秘密』のヒットを経て直木賞を受賞するまでの20年間に及ぶ奮闘が描かれています。本書は、東野圭吾が「エッセイ執筆から撤退する」と宣言した最後のエッセイ集でありながらも、そのタイトルに「たぶん」と付けるユーモアも垣間見えます。
このエッセイ集は「年譜」「自作解説」「映画化など」「思い出」「好きなもの」「スポーツ」「作家の日々」という7つの章から構成され、それぞれが東野氏の人生観や作家としての哲学を映し出しています。『白夜行』や『容疑者Xの献身』などの代表作の裏話や、自作についての詳細な解説、さらには映画化された作品のエピソードなど、東野作品のファンにはたまらない内容です。また、阪神タイガースへの熱い想いやオリンピックで感動したエピソード、学生時代の貧乏生活など、私生活にまつわるユーモラスなエピソードも多数収録されています。
特筆すべきは、創作に対する姿勢や執筆技術についての考察が散りばめられている点です。「失敗作をリライトして次に活かす」「成功したパターンを別のネタに応用する」など、作家としての手法が具体的に語られており、物書きを志す人にも役立つ一冊となっています。また、理系出身の東野がどのようにして文章を組み立てているのかという新しい視点も提供しています。
カバー装画や章扉のイラストは東野自身が手掛けており、さらに彼の愛猫・夢吉の写真が表紙に使われています。本書を読むことで、東野圭吾という作家の多面的な魅力を再確認できるでしょう。
コメント