「海抜0mの土地」と聞くと、海とまったく同じ高さの場所が本当に存在するのか、不思議に思う人は多いはずです。
さらに、ニュースなどで「ゼロメートル地帯」「海抜マイナスの地域」という言葉を耳にすることもありますが、いったいどういう仕組みで“海より低い土地”が成り立っているのでしょうか?
前の記事では、海抜や標高の基準となる「平均海水面(MSL)」がどのように決められているかを解説しました。
その知識をふまえると次に気になるのが、実際に海抜0mの土地はどこにあるのか?
そして、海抜0m以下の場所はどうして存在できるのか? という疑問です。
本記事では、日本のゼロメートル地帯から、世界各地の海面下に広がる大地まで、海抜0m付近の土地がどのように生まれ、どんな特徴を持つのかをわかりやすく解説します。
防災や地形の理解にも役立つ内容なので、ぜひ暮らしと身近に関係する「土地の高さ」の世界を一緒に見ていきましょう。
🌊 海抜0mとはどんな場所?
海抜0mとは、平均海水面(MSL)と同じ高さを意味します。
地図上でも「標高0m=海抜0m」と表示されるため、海に接する“海岸線そのもの”が0m地点だと思われがちです。
しかし、実際には 自然の状態で“ピッタリ0m”という地形はほとんど存在しません。
なぜなら、海面は潮の満ち引き、気圧、季節風、台風、海流などの影響で常に上下しており、実際の海岸線は一日の中でも数十センチ〜1m以上動いてしまうからです。
そのため、私たちが使う「海抜0m」というのは、
- 実際の海面の瞬間的な高さではなく
- 長期間の観測から算出した“平均的な海面の高さ”を基準とした仮想の0mライン
であるという点がポイントです。
つまり、海抜0mとは 地図上で定義された“基準の高さ” であり、リアルな地形が必ずしもその高さに一致しているわけではありません。
🧩 では、海抜0mと実際の陸地の関係はどうなる?
自然界には以下のようなケースがあります。
- 海抜0mより少し高い場所(1〜数m)
→ 普通の海岸平野。満潮時に波が届くこともある。 - 海抜0mとほぼ同じ高さの土地
→ 干潟、河口部、湿地帯など。水害リスクが高い。 - 海抜0mより低い土地(負の高さ)=ゼロメートル地帯
→ 日本にも多数存在し、堤防やポンプで排水して“人工的に維持”されている。 - 海抜0m以下が自然に形成されている大陸盆地
→ 死海、アファール盆地など。
このように、海抜0mはあくまで「高さの基準」であり、実際の地形はその基準より高いことも低いこともあり得る というのが重要ポイントです。
🇯🇵 日本に海抜0m以下の土地はある?|ゼロメートル地帯とは
結論からいうと、日本には海抜0m以下の土地が多数存在します。
とくに東京湾沿岸や大阪湾沿岸などの大都市周辺には、いわゆる「ゼロメートル地帯」と呼ばれる低地が広がっています。
ゼロメートル地帯とは、
- 平均海水面(=海抜0m)よりも土地の高さが低い場所
- ただし堤防・水門・排水ポンプなどで浸水を防いでいる区域
を指す言葉です。
本来であれば海より低い位置にあるため水没してしまうはずですが、高度な治水設備を稼働させることで“人が住める土地として維持されている”という特徴があります。
🏙️ 日本の代表的なゼロメートル地帯
● 東京東部(江東区・江戸川区・葛飾区など)
- 日本で最も知られたゼロメートル地帯
- 荒川・江戸川・隅田川の下流域に広く分布
- 地盤沈下+埋立によって海抜マイナス域が拡大
- 高い堤防と大規模水門、ポンプ場によって水位を調整
● 愛知県(名古屋市港区・弥富市など)
- 伊勢湾沿岸に干拓地が広く、海抜0m未満が多い
- 大規模な農地や工業地帯が形成されている
● 大阪府(大阪市西成区・大正区・住之江区など)
- 湾岸地域に海抜0m以下の土地が点在
- 工業用水の地下水汲み上げが原因で地盤沈下が進行した歴史を持つ
● 兵庫県(尼崎市・西宮市の湾岸部)
- 埋立地が多く、海抜0m前後の地域が広がる
● 福岡県(博多湾岸の一部)
- 埋立による低地が形成され、水位管理が行われている
🌱 なぜ日本にゼロメートル地帯が多いのか?
日本の低地には、次の3つの要因が複雑に関わっています。
🔸 ① 干拓・埋立による人工的な造成
海を陸に変えると、元々の海面=0mより低くなるのは当然。
江戸時代から現代まで、日本では湾岸の干拓・埋立が非常に多く行われてきました。
🔸 ② 地盤沈下
- 工業用水の過剰な地下水くみ上げ
- 軟弱地盤の圧密
これらが原因で、都市部の地盤が1m〜数m沈降した地域も存在します。
🔸 ③ 河川の下流に都市が発達しやすかった
日本の主要都市の多くは河川の河口や低地に形成されました。
土地が平坦で広く、港にもアクセスしやすいためです。
👉 その結果、海抜0m前後の低地に 住宅・工場・商業地が密集する構造 が生まれました。
⚠️ ゼロメートル地帯のリスク:なぜ注目されるのか?
海抜0m以下の土地は、以下の理由から水害リスクが高いとされています。
- 高潮・台風で海水が堤防を越える可能性
- 河川からの逆流
- 大雨時に排水が追いつかず内水氾濫
- ポンプ場が停電すると即座に浸水するおそれ
そのため、堤防の増強やポンプ排水の強化、ハザードマップの整備など、国・自治体一体となった防災対策が行われています。
🌍 世界の海抜0m以下の土地|自然がつくる“海面下の大地”
日本の海抜0m以下の地域は、堤防や排水設備によって維持されている“人工的な低地”が中心ですが、世界に目を向けると、自然そのものがつくり出した“海より低い大地” が数多く存在します。
その規模は日本とは桁違いで、マイナス数十メートルから数百メートルに達する地域もあります。
ここでは、代表的な海面下の陸地を見ていきましょう。
🧂 ① 死海沿岸(イスラエル・ヨルダン)|世界で最も低い陸地 約−430m
地球上で最も低い場所として知られるのが、死海周辺の地域です。
海抜約 −430m 前後という極端な低地で、これは 東京スカイツリー(634m)の約2/3が地中に埋まっている ような深さに相当します。
特徴
- 大地溝帯(アフリカ大陸の裂け目)によって地盤が沈降し続けている
- 湖面が年々低下しており、陸地がさらに広がっている
- 地形的に外海とつながっておらず、海面との差は問題にならない
👉 “自然の地殻変動”によって生まれた巨大なくぼ地が、海面下の陸地を形成している。
🔥 ② アファール盆地(エチオピア・ジブチ・エリトリア)|海抜−100m超の火山地帯
アファール盆地は、アフリカ大地溝帯の中でもとくに地殻活動が活発な地域で、場所によっては 海抜−120m〜−155m に達します。
特徴
- プレートが裂ける「リフト帯」に位置
- 大地が引き裂かれて沈み込むため盆地が形成
- ダナキル砂漠は地球で最も暑い場所のひとつ
👉 プレートが離れながら沈み込む“地球規模の地形”が海面下を作り出している。
🌊 ③ カスピ海沿岸(ロシア・カザフスタン)|海抜−28mの広大な低地
カスピ海は「世界最大の湖」であり、外海とつながっていません。
そのため周囲の陸地は 海抜−28m 前後の低地となっており、自然に形成された海面下の地域が非常に広いのが特徴です。
特徴
- 湖の水位により周辺の“陸地の高さ”が決まる
- 自然地形として海抜マイナスの場所が広大に存在
- 人口・産業が集中する地域も多い
🏞️ ④ アメリカ・デスバレー(カリフォルニア州)|海抜−86mの極端な低地
デスバレー国立公園にある「バッドウォーター盆地」は、北米で最も低い地点で 海抜−86m。
特徴
- 周囲の山地に囲まれた盆地が沈降
- かつて湖だった場所の干上がった湖底
- 夏には50℃以上の気温に達することもある
🇳🇱 ⑤ オランダ(ポルダー地帯)|国土の約1/4が海面下
世界でもっとも“人工的に海面下の土地を広げた国”がオランダ。
国土の約 27%が海抜0m以下 といわれ、場所によっては 海抜−7m 程度の地域もあります。
特徴
- 大規模な干拓で陸地を造成
- 風車・堤防・排水機(ポンプ)などで排水
- 「ポルダー」と呼ばれる陸地を維持する技術が世界的に有名
👉 日本のゼロメートル地帯に最も近い“人工的な海面下の国”の代表例。
✨ 世界の海面下の地域は“自然か人工か”で大きく違う
| 地域 | 海抜 | 成因 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 死海 | −430m | 地殻変動 | 世界最深の陸地 |
| アファール盆地 | −100〜−155m | プレートの裂け目 | 火山・高温地帯 |
| カスピ海沿岸 | −28m | 湖の水位による自然地形 | 広大な低地 |
| デスバレー | −86m | 侵食+乾燥 | 盆地が干上がった地形 |
| オランダ | −1〜−7m | 人工的な干拓 | 国土の1/4が海面下 |
🔍 海抜が低い地域はどうやって生まれる?
海抜0m以下の土地が生まれる理由は、ひと言でいえば “地形が下がる” または “海面(基準)が下がる” という2つの力が働くためです。
そのメカニズムを、世界と日本の事例を踏まえて5つの要因に整理し、わかりやすくご紹介します。
① 地殻変動による沈降|プレート運動が大地を引き下げる
世界の海面下に広がる大地の多くは、地殻そのものが沈み込むことで形成 されています。
代表例は死海・アファール盆地などに見られる「リフト帯」。
✔ なぜ沈むの?
- 地球のプレート(岩盤)が引き裂かれる
- その隙間に向けて大地が沈み込む
- 数万年~数百万年単位で巨大な“くぼ地”が形成される
👉 自然がつくる最もスケールの大きい海抜マイナス地形。
② 侵食(風・川・氷河)によって土地が削られる
長期間にわたる侵食で、周囲より土地が削り取られ、結果として海面下の場所が生まれることがあります。
✔ 代表例
- 風による侵食 → デスバレー
- 氷河が岩盤を削る → 北欧やアルプス周辺の盆地
- 川の下刻 → 深い谷底(ただし海抜マイナスに達するのは極めて稀)
👉 「削る力」が「盛り上げる力」を上回ると、海面より低い地形ができる。
③ 地盤沈下(自然・人為両方)によって地表が沈む
日本のゼロメートル地帯の多くがこのパターンです。
✔ 人為的な地盤沈下
- 地下水くみ上げ
- 工場・ビルの荷重による圧密
- 地下資源の採取
→ 東京・大阪・名古屋の臨海部の沈降はこの影響が大きい。
✔ 自然の地盤沈下
- 沖積平野の土が圧密されても沈む
- 長期間の堆積作用で徐々に低地化
- 地震で土地全体が沈下することもある
👉 数十年で“海より低い土地”が形成されることもある。
④ 干拓・埋立による人工的な低地形成
最もわかりやすい要因が「人間が海を陸に変える」ことです。
✔ 海を埋め立てるとなぜ低くなる?
- 元々の海水面=海抜0m
- 埋立地の地盤は圧密しやすく沈む
- 結果として海面より低くなることがある
オランダが典型例で、ポルダー地帯の多くは海抜−1m〜−7m。
日本の埋立地や干拓地も同様で、堤防やポンプによって陸地として維持されています。
👉 “人の手で作られた低地”の代表格。
⑤ 湖水位の低下で元の湖底が地表に現れる
実は“海面が下がる”のではなく、湖が縮むことで海抜マイナスの地面が露出 するパターンもあります。
✔ 代表例:死海周辺
- 取水や乾燥化で湖水位が年々低下
- かつて湖底だった場所が陸化
- その湖底自体がもともと海抜−400m級の大地
👉 「湖の縁が陸地になる」ことで海抜マイナスの範囲が広がる。
🎯 5つの成因をひと言でまとめると…
- 沈む(地殻変動 / 地盤沈下)
- 削られる(侵食)
- つくる(干拓・埋立)
- 水が減る(湖水位低下)
これらが複合的に作用し、世界各地でさまざまな“海抜0m以下の土地”が形成されています。
⚠️ 海抜0m以下の地域が抱えるリスクと対策
海抜0m以下の土地は、海面より低い位置にあるという地形的な特徴から、水に関わる災害リスクが非常に高い 地域です。
日本でも世界でも、こうした低地では高度な治水設備が整備され、安全な居住環境が維持されています。
ここでは、海抜0m以下の土地が抱える主なリスクと、それに対して行われている対策をわかりやすく解説します。
🌊 ① 高潮(たかしお)による浸水リスク
台風や強風によって海水面が押し上げられると、堤防の高さを超えたり、河川へ逆流したりすることで浸水が発生します。
✔ なぜ危険なの?
- 海面より低いため、水が一度入り込むと自然には排水できない
- 津波と違い、高潮は広範囲を長時間浸水させることがある
- 都市部は地下空間が多く、被害が拡大しやすい
日本の東京湾沿岸・伊勢湾・大阪湾は、高潮リスクが高い地域として知られています。
☔ ② 大雨による内水氾濫(排水が追いつかない)
海抜0m以下の地域は、雨水が自然に海へ流れ出る勾配がほとんどありません。
そのため、大雨が降ると排水ポンプの能力を超えてしまい、街の中に水がたまってしまう「内水氾濫」が発生します。
✔ とくに危険な条件
- 連日の大雨
- ポンプ場が停電・故障した場合
- 河川の水位が高いと排水自体ができなくなる
都市型水害として近年注目されています。
🌪️ ③ 河川の氾濫・逆流のリスク
低地は川の下流に位置することが多いため、洪水時の水圧が直接かかる という弱点があります。
✔ 起こりやすい現象
- 河川水が堤防を越える
- 水門から逆流して市街地へ流入
- 支流から排水できずに水があふれる
大河川が集中する東京東部などは、広域的な水害対策が必須です。
🔌 ④ ポンプ場の停止=即浸水につながる脆弱性
海抜0m以下の土地最大の特徴は、人間の力で水をくみ上げて維持している という点です。
つまり…
ポンプが止まる
→ 雨水が排出できない
→ 数十分〜数時間で浸水が始まる
✔ 停止の原因
- 停電
- 機器故障
- 津波や浸水による設備破損
オランダでも日本でも、「ポンプが止まる=都市機能の喪失」に直結します。
🛡️ 海抜0m以下の地域が行う主な対策
海抜が低い地域が安全に暮らすためには、堤防・水門・排水設備を組み合わせた多層防御が欠かせません。
① 高規格堤防・高潮堤の整備
- 海面より高い堤防を築き、高潮や津波の侵入を防ぐ
- 東京湾周辺の堤防は非常に高規格(場所によっては高さ10m級)
- 伊勢湾高潮(1959年)の教訓をもとに全国で強化
② 巨大水門の設置
高潮や大雨時に河口部を閉じ、逆流を防ぐための施設です。
代表例
- 東京・荒川の「岩淵水門」
- 名古屋の「堀川水門」
- 大阪の「大川水門」
海からの水圧に耐えつつ、都市を守る役割を担います。
③ 排水ポンプ場の整備(低地の生命線)
海抜0m以下の地域では、雨水を自然流下できないため、
- 雨水をためる → ポンプで海へ強制排水する
という仕組みで街を維持しています。
✔ 特徴
- 大型ポンプは数十トン〜数百トンを1分間に排水
- 停電時の非常用発電機を完備
- オランダ・日本は世界トップレベルの技術力
④ 地盤沈下を抑える取り組み
- 地下水の揚水規制
- 都市インフラの改良
- 地下水涵養(かんよう)
東京はこれにより、戦後に深刻だった地盤沈下をほぼ止めることに成功。
⑤ ハザードマップ・避難計画など“ソフト対策”
近年は住民の防災意識を高めるための取り組みも重視されています。
- 洪水・高潮ハザードマップの公開
- 避難場所・避難方法の周知
- ゼロメートル地帯の危険性表示
「自分の住む場所の海抜を知る」だけでも重要な防災行動につながります。
✨ まとめ|海抜0mを知ることは、暮らしを守る第一歩になる
海抜0mとは、平均海水面を基準にした高さの指標であり、単なる地理用語のように見えて、私たちの暮らしに深く関わる大切な情報です。
日本には、東京・名古屋・大阪をはじめとする“ゼロメートル地帯”が多く存在し、世界にも死海やオランダのように海面より低い地域が広がっています。
これらの土地は、地殻変動・侵食・地盤沈下・干拓・湖水位の低下 といったさまざまな要因によって形成され、地域ごとに異なる背景を持っています。
低地の多くは、堤防や水門、排水ポンプといった設備に守られており、私たちはそこに住むことで、自然の力と技術のバランスの上に成り立つ暮らしをしているともいえます。
だからこそ、海抜0mをはじめとする“自分の住む土地の高さ”を知っておくことは、防災においてとても重要です。
ハザードマップをチェックしたり、海抜表示のある地図アプリを活用したりするだけでも、災害時にとれる行動が大きく変わります。
ぜひこの記事をきっかけに、ご自身の住む地域やよく訪れる場所の海抜を一度確認してみてください。
土地の特徴を知ることは、自分や家族の安全を守る第一歩になります。



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