「株式会社」と聞くと、上場している大企業や、有名な上場銘柄を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
そのため、
- 上場していないのに株式会社って名乗っていいの?
- 株式会社を作るには、株式を公開しないといけない?
- 出資してくれる人がいないと会社は作れない?
- そもそも一人で会社なんて作れるの?
といった疑問や不安を感じる人は少なくありません。
しかし実は、これらの多くは 「株式会社」や「上場」という言葉から生まれた思い込み です。
日本にある株式会社のほとんどは上場しておらず、一人で設立された会社や、出資者が経営者本人だけの会社も珍しくありません。
本記事では、
- 上場と会社設立の違い
- 上場していなくても株式会社でいられる理由
- 株式や出資に関するよくある誤解
- なぜ人は会社という形を選ぶのか
といったポイントを、法律や制度の専門知識がなくても理解できるよう、順を追ってわかりやすく解説します。
「法人」や「会社の種類」を学ぶ前に、まずは 会社設立にまつわる基本的な勘違い をここで一度リセットしておきましょう。
そもそも「株式会社」とはどんな会社?
株式会社とは、株式を発行して資金を集め、その資金をもとに事業を行う会社形態のことです。
日本の会社法では、株式会社は「法人」の一種であり、営利を目的として活動します。
ここで大切なのは、「株式会社=上場企業」という定義はどこにもない という点です。
株式会社の本質は、次のような仕組みにあります。
- 出資した人が「株主」になる
- 株主は、出資額に応じて会社の持分(株式)を持つ
- 経営は、株主から選ばれた取締役が担う
つまり株式会社とは、「お金を出す人(出資者)」と「経営する人」を分けられる仕組みを持った会社 だと言えます。
この仕組みがあることで、
- 事業に必要な資金を集めやすい
- 経営者が交代しても会社は存続できる
- 事業の規模拡大を目指しやすい
といった特徴が生まれます。
なお、株式会社の細かいルールや他の会社形態との違いについては、別記事で詳しく解説しています。
このあと見ていくように、上場とは、この「株式会社の仕組み」を使った“選択肢のひとつ”にすぎません。
「上場」とは何か?会社設立との決定的な違い
「上場」とは、会社が発行している株式を、証券取引所で誰でも自由に売買できる状態にすることを指します。
テレビやニュースで取り上げられる「上場企業」とは、この状態にある会社のことです。
重要なのは、上場は会社を作るための条件ではない という点です。
● 上場とは「株を市場で公開すること」
上場すると、会社の株式は証券取引所を通じて広く一般に売買されるようになります。
これにより、
- 多くの投資家から資金を集めやすくなる
- 企業の知名度や信用力が高まる
といったメリットがあります。
一方で、
- 厳しい審査基準をクリアする必要がある
- 財務状況や経営情報を定期的に公開しなければならない
- 経営の自由度が下がる場合がある
といった負担も発生します。
● 会社設立と上場は「目的もタイミングも別物」
会社設立と上場は、しばしば同じ流れのように語られますが、実際にはまったく別の段階です。
- 会社設立
→ 事業を行うために法人を作ること - 上場
→ 成長した会社が、資金調達や知名度向上を目的に選ぶ手段の一つ
多くの会社は、設立 → 事業拡大 →(必要に応じて)上場を検討という順番をたどります。
そもそも、上場を目指さずに安定経営を続ける会社も非常に多く、
「株式会社を作ったら、いずれ上場するもの」ではありません。
なぜ「上場していない株式会社」が圧倒的に多いのか
日本に存在する株式会社のうち、上場している企業はごく一部にすぎません。
多くの人がイメージするような有名な上場企業よりも、中小規模の非上場株式会社のほうが圧倒的に多いのが実情です。
では、なぜ多くの会社は上場していないのでしょうか。
● 非上場株式会社が多い主な理由
① 上場には大きなコストと負担がかかる
上場するためには、証券取引所の審査を受ける必要があります。
その過程では、
- 安定した業績や財務体質
- ガバナンス体制の整備
- 内部管理体制の構築
など、かなり高い水準が求められます。
また、上場後も、
- 決算情報や経営状況の定期的な開示
- 株主対応やIR活動
といった継続的な負担が発生します。
② 経営の自由度を保ちやすい
非上場会社の場合、株主の範囲を限定できます。
そのため、
- 経営方針を長期目線で決めやすい
- 短期的な利益に振り回されにくい
- 創業者や経営陣の意思を反映しやすい
といったメリットがあります。
③ そもそも上場を目的としていない会社が多い
すべての会社が、「全国展開したい」「大規模な資金調達をしたい」と考えているわけではありません。
- 地域密着型の事業
- 家族経営・少人数経営
- 特定の取引先との安定取引
こうした事業スタイルでは、上場しないほうが合理的なケースも多くあります。
このように、非上場株式会社は特別な存在ではなく、むしろ“普通の株式会社” です。
上場していなくても株式は発行できる?
「株式」と聞くと、証券取引所で売買されている株を思い浮かべる人は多いかもしれません。
しかし、株式=上場用 というわけではありません。
● 株式は本来「出資の証明」
株式の本来の役割は、会社にお金を出したことを示す“出資の証明書” です。
- 株式を持っている=会社の持分を持っている
- 株主は会社のオーナーの一人
この仕組みは、上場しているかどうかに関係なく同じです。
つまり、株式会社である以上、上場していなくても株式は発行されています。
● 非上場会社の株式はどう扱われる?
非上場株式会社の株式は、証券取引所を通じて自由に売買されることはありません。
多くの非上場会社では、
- 株式の譲渡に会社の承認が必要
- 第三者への売却を制限している
といった「譲渡制限」が設けられています。
これは、
- 知らない人が突然株主になるのを防ぐ
- 経営の安定性を保つ
ための仕組みです。
● 出資を募ることはできるが、やり方が違う
上場企業のように不特定多数から資金を集めることはできませんが、
非上場会社でも、
- 知人や取引先
- 共同創業者
- エンジェル投資家
など、限定された相手から出資を受けることは可能です。
このように、「株式を発行できるか」と「上場しているか」は別の話 だと理解しておくことが大切です。
会社は一人では設立できない?
「会社を作る」と聞くと、複数人で起業するイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし現在では、一人でも株式会社を設立することが可能です。
● 昔は複数人が必要だったが、今は一人でOK
かつての会社法では、株式会社を設立するために複数の発起人や取締役が必要でした。
しかし、会社法の改正により、
- 発起人:1人でOK
- 株主:1人でOK
- 取締役:1人でOK
となり、「一人株式会社」 が制度上も一般的になっています。
● 実際に多い「一人株式会社」のケース
現在、特に多いのが次のようなケースです。
- 個人事業主が信用力向上のために法人化
- フリーランスが取引先の要望で会社設立
- 小規模事業を法人として運営したい場合
このような会社では、経営者本人が100%の株式を持つ ことも珍しくありません。
● 合同会社との比較で見えてくる選択肢
一人で設立できる会社形態は、株式会社だけではありません。
合同会社(LLC)も、少人数・一人起業でよく選ばれます。
- 株式会社:将来の拡大や出資を視野に入れやすい
- 合同会社:設立・運営コストを抑えやすい
出資者がいないと会社は作れない?
「株式会社は出資を集めて作るもの」というイメージから、出資してくれる人がいないと会社は設立できないと思われがちです。
しかし、これは大きな誤解です。
● 自己出資だけで会社は設立できる
株式会社の設立にあたって、必ずしも他人から出資を受ける必要はありません。
- 経営者自身が出資する
- その出資金を資本金として会社を作る
この形で、一人で会社を設立することが可能です。
極端な話をすれば、経営者=出資者=株主 という構図になります。
● 「資本金1円」で設立できるって本当?
法律上は、資本金1円でも株式会社は設立できます。
ただし、実務面では注意点もあります。
- 取引先や金融機関からの信用
- 運転資金の余裕
- 初期費用(登記費用・設備費など)
そのため、「1円で作れる」=「1円で運営できる」ではありません。
この点は、会社設立を検討する際に知っておきたいポイントです。
● 出資は「設立時」だけのものではない
出資は、会社設立のタイミングだけに限られません。
- 事業が軌道に乗ってから
- 新しい事業を始めるとき
- 成長資金が必要になったとき
など、後から出資を受けることも可能です。
つまり、
- 出資者が集まらないから会社を作れない
- 先に出資者がいないと設立できない
ということはありません。
それでも人は「会社」を作る理由とは?
個人事業主として事業を続けるという選択肢がある中で、あえて会社を設立する人は少なくありません。
そこには、「上場」や「出資」とは別の理由 が存在します。
● 会社を作る主なメリット
① 社会的信用を得やすくなる
法人であること自体が、取引先や金融機関に対する信用材料になることがあります。
- 法人名義での契約がしやすい
- 企業間取引に参加しやすい
- 一定の継続性が期待されやすい
といった点は、会社ならではの強みです。
② 契約やお金の管理を分けられる
会社を設立すると、
- 事業用の資産・口座
- 個人のお金や財産
を明確に分けることができます。
これにより、
- 事業の収支が把握しやすくなる
- 責任の範囲を整理しやすい
というメリットがあります。
③ 事業の成長に合わせた選択肢が広がる
会社という形を取ることで、
- 出資を受ける
- 組織を拡大する
- 将来的に上場を目指す
など、成長段階に応じた選択肢 を持てます。
たとえ最初は一人会社であっても、将来の可能性を残せる点は大きな魅力です。
④ 事業承継や継続性を考えやすい
会社は、経営者個人とは別の存在です。
そのため、
- 経営者が交代しても事業を続けられる
- 株式を通じて事業を引き継げる
といった点も、会社形態が選ばれる理由の一つです。
まとめ|法人を学ぶ前に、この誤解だけは外しておこう
「株式会社」や「会社設立」という言葉には、知らないうちに多くの思い込みがつきまといます。
しかし、ここまで見てきたように、
- 株式会社=上場企業ではない
- 上場は会社設立の条件ではなく、あくまで選択肢の一つ
- 上場していなくても株式は発行できる
- 会社は一人でも、自己出資だけでも設立できる
というのが、制度上の正しい理解です。
日本にある株式会社の大半は非上場であり、一人で設立された会社や、株主が経営者本人だけの会社も珍しくありません。
それでも多くの人が会社という形を選ぶのは、
- 社会的信用を高めたい
- 事業を継続・成長させたい
- 将来の選択肢を広げたい
といった、現実的な理由があるからです。
本記事で整理した前提を押さえておくことで、これから学ぶ 「株式会社」「合同会社」「各種法人」 の違いも、よりスムーズに理解できるはずです。
次はぜひ、
👉 法人の種類を整理した記事
👉 株式会社・合同会社などの個別記事
を読み進めてみてください。







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