『犯人のいない殺人の夜』とは
『犯人のいない殺人の夜』は、東野圭吾による短編推理小説集。1985年から1988年の間に『小説現代』『小説宝石』などで発表された初期の7作品が収録されています。1990年7月に光文社から単行本として刊行され、1994年には文庫化されました。
表題作「犯人のいない殺人の夜」は、殺人が起こった“夜”とその後の“現在”を交互に描く斬新な構成が特徴で、他の収録作品もそれぞれ独自のテーマとスタイルで綴られています。
著者によると、本作執筆当時は短編の書き方が分からず、アンソロジーを読んで研究しながら執筆したとのこと。子供が主人公の作品が多いのは、大人の犯罪を書く自信がなかったためだと語っています。また未熟な作品としながらも、試行錯誤を重ねながら書いた思い出深い作品であると評価しています。
2012年には、「犯人のいない殺人の夜」「さよならコーチ」「エンドレス・ナイト」「白い凶器」「小さな故意の物語」の5編がフジテレビ系オムニバスドラマ『東野圭吾ミステリーズ』の原作となり、映像化されました。
本作は、東野圭吾の作家としての成長過程を垣間見ることができる貴重な短編集であり、多様なストーリーと人間心理の描写が魅力の一冊です。
『犯人のいない殺人の夜』の あらすじ
東野圭吾の短編集『犯人のいない殺人の夜』は、巧妙なトリックと人間の心理描写が際立つ7つのミステリーで構成されています。以下は各話の詳細な内容です。
【小さな故意の物語】
県立W高校で男子生徒・行原達也が校舎の屋上から転落死した。警察は目撃証言から自殺と判断するが、親友の良は達也が自殺するはずがないと独自に調査を開始する。調査を進めるうちに、事件の背景には2つの「恋」と「故意」が絡み合っていることが明らかになる。
【闇の中の二人】
中学校教師の永井弘美は、生徒の萩原信二から「弟が殺された」という衝撃的な電話を受ける。生後3カ月の赤ん坊が絞殺されるという悲劇の背景には、複数の人物の思惑と欲望が絡んでいた。事件の真相に迫る中、弘美は人間関係に潜む複雑な闇を目の当たりにする。
【踊り子】
中学生の遠藤孝志は、水曜日の夜、私立女子高の体育館で新体操の練習をする少女に魅了される。彼女に近づきたい一心でスポーツドリンクを差し入れするが、突然彼女が姿を消す。孝志の家庭教師・黒田が彼女の行方を追う中、隠された悲劇的な真実が明らかになる。
【エンドレス・ナイト】
大阪で単身赴任中の夫・田村洋一が刺殺されたという連絡を受けた妻の厚子は、大阪府警の番場刑事と共に事件の真相を探るため、洋一が過ごしていた場所を巡る。厚子が大阪の街並みを歩きながら見つけたのは、夫の知られざる一面と事件の驚くべき真相だった。
【白い凶器】
大手食品メーカーの課長がビルから転落死し、その後係長が睡眠薬で死亡する。連続殺人の可能性も浮上する中、捜査が進むにつれて2人が命を落とすことになった意外な動機が浮かび上がる。
【さよならコーチ】
アーチェリー選手の望月直美が自殺したと見られていた。しかし、彼女が残したビデオメッセージには、隠されたトリックが潜んでいた。刑事がコーチに告げた直美の死の真相は、さらなるからくりを示唆していた。
【犯人のいない殺人の夜】
著名な建築家・岸田創介の家で、安藤由紀子という女性が殺害される。岸田家の家族や家庭教師の拓也は、事件を隠蔽するため死体を処理するが、由紀子の兄・和夫が真相を探り始めたことで計画にほころびが生じる。事件の背後に潜む恐るべき計画が明らかになる。
それぞれの物語では、人間の愛憎や欲望が絡み合い、事件の真相が予想外の形で明らかになります。東野圭吾の巧みな筆致が光る珠玉の短編集です。
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