『噓をもうひとつだけ』とは
『嘘をもうひとつだけ』は、東野圭吾による加賀恭一郎シリーズ初の短編推理小説集であり、シリーズ第6作に位置付けられます。2000年4月に講談社から単行本として刊行され、2003年には講談社文庫版が発売されました。収録されているのは表題作「嘘をもうひとつだけ」を含む、以下の5編です。
- 嘘をもうひとつだけ
- 冷たい灼熱
- 第2の希望
- 狂った計算
- 友の助言
全編を通じたテーマは「嘘」。正直に生きたいと願いつつも、さまざまな事情から「嘘」に縛られる人々が描かれています。最初は小さな嘘から始まり、それを隠すためにさらに嘘を重ねていく――。そんな人間の悲哀とその裏に潜むドラマを、加賀恭一郎刑事が冷静かつ鋭い洞察力で解き明かしていきます。
本作の特徴は「犯人探し」ではなく、「犯人の動機」に焦点を当てた点です。加賀刑事が容疑者たちと対峙し、真実を暴いていく展開は、古畑任三郎や刑事コロンボを思わせる緊張感と見応えがあります。また、短編集ながら各話の伏線や心理描写が巧妙に絡み合い、ミステリーとしての完成度は非常に高いものとなっています。
本作の中から「冷たい灼熱」と「狂った計算」は、『多摩南署たたき上げ刑事・近松丙吉シリーズ』としてテレビドラマ化され、視聴者にも大きな衝撃を与えました。短編集ながら深く心に残る人間ドラマと推理の妙を堪能できる一冊です。
『噓をもうひとつだけ』の あらすじ
『嘘をもうひとつだけ』は、東野圭吾による加賀恭一郎シリーズ初の短編推理小説集であり、5つのエピソードから成る作品です。それぞれの物語は、「嘘」をテーマにし、人間関係の深層や事件の真相を描き出しています。鋭い洞察力と冷静な推理で真実を暴く加賀刑事の活躍を通じて、嘘がもたらす悲劇や哀愁が浮き彫りにされています。
【嘘をもうひとつだけ】
バレエ団の事務員で元ダンサーの早川弘子が、転落死体となって発見されました。一見すると自殺と思われたこの事件ですが、加賀刑事は元プリマバレリーナの寺西美千代が関与していると考えます。巧妙な心理戦を仕掛け、寺西の口を開かせようとする加賀。果たして彼の罠は成功するのか?
【冷たい灼熱】
田沼洋次の妻・美枝子が自宅で殺害され、生後1歳の息子・裕太が行方不明になるという悲劇が発生しました。部屋は荒らされ、強盗殺人と思われたが、加賀は事件の背景に隠された夫婦間の秘密と母親の愛情に着目。意外な真相を導き出します。
【第2の希望】
シングルマザーの楠木真智子の恋人が自宅で殺害されました。現場は荒らされており、強盗殺人と思われましたが、加賀の執拗な追及により、真智子は自供を始めます。しかし、それすらも彼女の「第2の希望」に過ぎないことが判明します。真智子が守りたかったものとは?
【狂った計算】
夫を事故で亡くしたばかりの坂上奈央子。その事故と同日に、親しくしていた建築士・中瀬幸伸が失踪するという奇妙な偶然が起きます。加賀はこれらの事件に関連性を見出し、真相に迫ります。浮かび上がるのは、計算外の悲劇と人間の脆さでした。
【友の助言】
加賀の友人・荻原保が交通事故を起こし、重傷を負います。事故の原因が「居眠り運転」とされるが、加賀はそれを疑い、荻原に事故の背景を尋ねます。加賀が見抜いた驚くべき真実とは?
各編ともに人間の心に潜む嘘と、それが引き起こす事件の真実に迫ります。巧みに張られた伏線や緻密な心理描写は見事で、短編ながらも深い余韻を残す名作です。
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