『希望の糸』とは
『希望の糸』は、東野圭吾による「加賀恭一郎シリーズ」の第11弾。2019年7月に刊行され、2022年7月に文庫化された長編推理小説です。本作では、加賀恭一郎だけでなく、彼の従兄弟であり刑事でもある松宮が中心となり、事件の謎に挑みます。物語は、閑静な住宅街で喫茶店を営む花塚弥生が何者かに刺殺されたことから始まります。一見平穏な生活を送っていた弥生ですが、捜査を進めるうちに浮かび上がるのは、被害者や容疑者たちが抱える過去の秘密や「家族」の形。震災で子供を亡くした常連客、不妊治療を続けた夫婦、望まれない妊娠から中絶を余儀なくされた女性――それぞれの人生が交錯し、事件の真相が徐々に明らかになります。松宮自身もまた、自身の出生に関する謎と向き合い、様々な形の「希望」を見出していく感動のミステリーです。
『希望の糸』の あらすじ
目黒区自由が丘にあるカフェ「カフェ・リリー」のオーナー、花塚弥生が店内で刺殺されるという事件が発生します。背中をケーキナイフで刺されており、即死。犯人の目星がつかないまま、捜査は難航します。捜査にあたるのは、加賀恭一郎とその従兄弟である松宮脩平。二人は弥生の周囲の人間関係を丹念に調べていく中で、いくつかの疑わしい点を発見します。
捜査線上に浮かび上がるのは、震災で家族を失い喫茶店の常連客として通っていた汐見行伸、そして弥生の元夫・綿貫哲彦。この二人には、弥生との深い関係があることが明らかになりますが、いずれも事件当時のアリバイが成立していました。また、弥生の不可解な行動を調べる中で、一人の少女の存在が浮かび上がります。
一方で、松宮自身もまた、プライベートで大きな転機を迎えます。ある女性から「あなたの父親だと名乗る人物がいる」と告げられ、自身の出生に関わる真実に向き合わざるを得なくなるのです。
さらに捜査が進む中、十数年前に起きた受精卵取り違え事件が弥生の死に関わっていることが明らかになります。そして思いもよらない人物が殺害を自白。その背景には、誤解から生じた悲劇と家族を守るための選択がありました。
複数の家族の物語が絡み合いながら、事件の真相と「希望」が浮かび上がる本作は、加賀シリーズ屈指の感動作です。
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