『怪笑小説』とは
『怪笑小説』は、東野圭吾によるユーモア短編集で、『笑小説』シリーズの第1作目です。1993年から『小説すばる』や『小説新潮』に掲載された作品を集め、1995年10月26日に集英社から単行本として刊行されました。その後、1998年8月20日に集英社文庫版が発行され、シリーズの人気を確立しました。
単行本には各作品ごとに著者による「あとがき」が付されており、創作の裏側やエピソードも楽しむことができます。一方、文庫版では「あとがき」に代わり、巻末に作家・真保裕一による解説が収録され、さらに深く作品を味わえる構成となっています。
本作は「ユーモア小説」という形をとりつつ、シュールでブラックな笑いが随所に盛り込まれています。日常の裏に潜む奇妙で風刺的なエピソードが、軽妙なタッチで描かれ、読み手を不気味な笑いの世界へと誘います。その斬新な視点と独特の語り口は、東野圭吾の新たな魅力を堪能できる一冊となっています。

『怪笑小説』
(集英社文庫)
1995年 1月 発売
『怪笑小説』の あらすじ
『怪笑小説』は、東野圭吾が描くユーモアとブラックジョーク満載の短編集。日常の中で浮かび上がる奇妙な人間模様を描きながら、社会風刺とシュールな笑いを交える独特な世界観を楽しめます。以下、収録された9編の概要です。
【鬱積電車】
満員電車という閉鎖空間では、見知らぬ人々がそれぞれ鬱積した感情を抱えながら過ごしている。乗客たちが抱える小さな苛立ちが積み重なり、やがて車内に想像を絶する事態が巻き起こる。
【おっかけバアさん】
生活に慎ましく暮らす老女・勝田シゲ子。ある日ひょんなことから手に入れた舞台公演のチケットを機に、特定の役者に夢中になり“おっかけ”生活を始める。次第に彼女の生活はエスカレートし、周囲を巻き込む驚きの展開を迎える。
【一徹おやじ】
夢を野球に託した父親は、息子をプロ野球選手に育て上げようと奮闘する。長女である「私」を無理やり野球に引き込むも、待望の息子が生まれると期待を集中させる。しかし、父親の思惑とは異なる弟の行動には、思いもよらない秘密があった。
【逆転同窓会】
かつての名門高校の教師たちが集う同窓会。そこに黄金時代の生徒たちが招かれ、先生たちの威厳は次第に崩壊していく。教師と教え子の立場が逆転し、かつての栄光が皮肉に変わる。
【超たぬき理論】
少年時代、タヌキが空を飛ぶのを目撃した若山一平は、「タヌキには超能力がある」という独自の理論を構築し、UFOはタヌキが化けたものであると主張する。彼の奇説は注目を集め、ついにテレビ番組で討論が行われることに。
【無人島大相撲中継】
豪華客船が沈没し、無人島に漂着した人々の唯一の娯楽は、相撲中継を語り尽くす徳俵庄ノ介の話だった。やがてその「中継」が賭け事に発展し、孤島に奇妙な熱気が広がる。
【しかばね台分譲住宅】
住宅地で発見された死体。住人たちは自分たちの不動産価値を守るため、死体を隣の住宅地に移す計画を立てる。しかし、その死体は思わぬ方法で戻ってきてしまう。
【あるジーサンに線香を】
孤独な老人が若返りの実験に協力することに。手術を受けた老人は次第に若返り、ついには20代の姿に戻る。しかし、若さを取り戻した彼が目指す先には意外な目的が待ち受けていた。
【動物家族】
中学生の肇は、ある日から周囲の人間が動物に見えるようになった。家族や友人も動物に見え、孤独感に苛まれる肇が次第に見せる変化とは…。
奇抜で少しブラックなキャラクターたちが織りなす、笑いと恐怖が入り混じる9編。日常の裏に潜む非日常を炙り出した本作は、東野圭吾の新境地ともいえる一冊です。
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