東野圭吾 著 『変身』って どんな本?

東野圭吾『変身』 小説

『変身』(へんしん)は、東野圭吾による書き下ろしのサスペンス小説。脳移植という最先端医療の実験台となった主人公が、手術後に自身の人格が失われていく恐怖と葛藤を描き出す。世界初の脳移植手術によって命を救われた青年が、次第に別人となっていく自分に苦しみ、その原因と向き合いながら究極の選択を迫られる物語だ。

この作品は、他者と自分との境界線、そして「自分とは何か」という哲学的なテーマを扱い、読者を深く考えさせる内容となっている。小説家・新井素子は、『パラレルワールド・ラブストーリー』文庫版の解説で、本作を『分身』『パラレルワールド・ラブストーリー』とともに「東野“私”三部作」と呼んでいる。

2005年には映画化され、さらに間瀬元朗による漫画『HE∀DS』として「週刊ヤングサンデー」で連載されるなど、多様なメディアで展開された。また、2014年7月にはWOWOWでテレビドラマ化され、原作の持つ緊迫感と心理描写が映像作品としても高く評価された。

科学と人間性、そしてアイデンティティの揺らぎをテーマにした本作は、東野圭吾の初期作品の中でも特に異色の一作として、今なお多くの読者に強い印象を与えている。

東野圭吾『変身』

『変身』

(講談社文庫)

1991年 1月 発売

青年・成瀬純一は、画家を夢見る平凡で心優しい男だった。しかし、不動産屋を訪れた際、突如逃亡中の強盗に遭遇。店内にいた女の子をかばった純一は、強盗が放った銃弾を受けて頭部に致命傷を負う。瀕死の彼に施されたのは、世界初の成人脳移植手術だった。奇跡的に命を取り留めた純一だが、次第に自分の性格や趣味嗜好が以前とは大きく異なることに気付き始める。

退院後、恋人・葉村恵と再会した純一は、彼女への愛情が薄れ、自分が別人になってしまったかのような違和感に苦しむ。かつて楽しんでいた絵を描くこともできなくなり、職場の同僚たちへの苛立ちも募っていく。さらには暴力的な衝動に駆られるようになり、自分自身が制御できない危険な存在になりつつあることを恐れ始める。

自分の変化に対する答えを求めた純一は、移植された脳の持ち主(ドナー)の正体を突き止めることを決意。手術を執刀した堂元教授の制止を振り切り、ドナーが交通事故で亡くなった関谷時雄であることを知る。しかし、時雄の性格や生前の情報は、自分の変化に当てはまらない。さらに調査を進める中で、純一は移植された脳が、強盗犯で自分を撃った京極瞬介のものではないかと疑い始める。

やがて、堂元教授から脳のドナーが京極であることを告げられた純一は絶望し、自らの人格が徐々に京極のものに支配されつつある恐怖に怯える。自分が自分でなくなる前に何とかしようと足掻くものの、変貌を止めることはできず、最愛の恵をも傷つけそうになる。

最終的に純一は、愛する人を守り、自分自身を取り戻すため、堂元の研究所を訪れる。そして、「移植された脳を取り除いてほしい」と懇願するが、叶えられないことを悟った純一は、自らの頭部を撃ち抜くという究極の決断を下す。手術により命は助かったものの、純一は意識を持たない植物状態となる。

恵はそんな彼を見守りながら、純一が残した最後の絵を胸に生き続ける。彼の絵には、純一がかつて愛した彼女のそばかすまで丁寧に描かれていた――それが彼自身の最後のメッセージだったのかもしれない。

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