「学校法人」という言葉はよく耳にしますが、実際にはどのようなしくみで運営され、なぜ大学や短大の多くが学校法人でなければならないのかご存じでしょうか?
学校は教育を担う“公益性の高い存在”であるため、株式会社のように利益を追求する企業と同じ仕組みでは運営できません。
また、大学は学校法人のみが設置できるのに対し、専門学校は会社組織でも設置できるなど、教育機関によってルールが異なる点もわかりにくい部分です。
本記事では、学校法人の成り立ちや特徴、大学や専門学校との関係性までをわかりやすく解説し、
「なぜ学校が学校法人として運営されるのか」をスムーズに理解できる内容になっています。
学校法人とは?
学校法人とは、学校教育法に基づいて設立される「私立の学校を運営するための非営利法人」です。
幼稚園・小学校・中学校・高校・大学・短期大学などの“学校教育法上の学校”を設置し、安定して教育を提供することを目的としています。
学校法人は、株式会社のように利益を追求する組織ではなく、教育という公益性の高い活動を長期的に継続することが求められる点が最大の特徴です。
また、学校法人には株主が存在せず、出資者が利益を受け取る仕組みもありません。
法人が保有する財産は、あくまで“学校の教育活動のために使うもの”として扱われます。
そのため、授業料収入や補助金、寄附金などの財源はすべて教育環境の維持・改善に充てられる形になります。
なぜ学校は株式会社ではなく学校法人なのか?
学校が株式会社ではなく「学校法人」として運営されている最大の理由は、教育が営利目的で行われてはならない公益的な活動だからです。
株式会社は株主の利益最大化を目指す組織であり、収益性の高い事業へと方向転換することもできます。
しかし、教育機関が同じ考え方で運営されると、次のような問題が起こる可能性があります。
- 利益を優先し、授業料を不当に引き上げる
- 学力よりも経済力のある学生を優先的に確保する
- 教育環境よりも利益率の高い事業にシフトする
- 経営が悪化したら廃止や転換が容易に起きてしまう
こうした状況は、公益性を重視すべき“教育”という領域にはそぐわないため、学校は営利企業ではなく、利益を分配しない非営利法人としての運営が求められます。
さらに、学校法人には「安定的に教育を提供すること」が法律で義務付けられており、急な事業転換や利益配分ができない仕組みになっています。
学校法人の財産はどう扱われる?
学校法人が「非営利法人」とされる根拠のひとつが、財産の扱いに明確な制限があることです。
学校法人の財産は、出資した人の所有物ではなく、あくまで「学校の教育活動のための財産」として扱われます。
● 出資ではなく“寄附”でスタートする
学校法人は会社と違い、株式はありません。
設立時に拠出される財産も「出資」ではなく「寄附」とされ、拠出者が持ち帰ったり利益を受け取ることはできません。
● 財産は法人に帰属し、個人に分配できない
学校法人が保有する資産(校舎・土地・設備・運営資金など)はすべて法人に属し、理事や出資者であっても 利益として受け取ることは禁止 されています。
● 余剰金(利益)が出ても分配されない
授業料や補助金などから余剰金が出る場合もありますが、これは法人の蓄積金として扱われ、
- 教育環境の改善
- 新校舎の整備
- 教育機材の購入
- 学生支援の強化
など、すべて学校のためだけに使われる ルールになっています。
このように、学校法人の財産が“誰かの利益”になることはなく、教育という公益目的のために厳格に管理される仕組みが非営利性の大きな特徴です。
大学・短期大学との関係
大学や短期大学は、学校教育法が定める「学校」に分類され、その設置主体は原則として学校法人と定められています。
そのため、私立大学・私立短大のほとんどは学校法人が運営しており、教育・研究・施設管理などの全体的な運営を担っています。
● 私立大学はほぼすべて学校法人が運営
日本では、約7割の大学が私立大学であり、その運営主体はほぼ例外なく学校法人です。
法人が施設整備や教員雇用を行い、大学が安定して教育を行えるよう支えています。
● 国立大学は「国立大学法人」という別の法人
「学校法人=私立学校の法人」であるのに対し、国立大学には
国立大学法人
という国が設置した別の非営利法人があります。
つまり、
- 私立大学 → 学校法人が運営
- 国立大学 → 国立大学法人が運営
という違いがあります。
● 法人と大学は“不可分の関係”
学校法人は大学の経営母体として、
- 財務管理
- 教育環境の整備
- 研究費の管理
- 教育方針の策定
など、大学の運営全体を担います。
大学の経営状況が悪化すれば、そのまま学校法人の経営問題となり、法人の判断によって統合・再編・キャンパス移転が行われるケースもあります。
このように、大学と学校法人は密接に結びついた「一体の組織」として機能しています。
公立の学校はどういう立ち位置になるの?
学校法人が“私立学校の運営主体”であるのに対し、公立学校は 国や自治体が設置・運営する教育機関 で、まったく異なる仕組みで成り立っています。
ここでは、公立学校の立ち位置や運営方法、資金調達の仕組みを整理して説明します。
● 公立学校の設置主体は国または地方公共団体
法律では、以下のように設置主体が明確に定められています。
- 小学校・中学校 → 市区町村が設置
- 高等学校 → 都道府県が設置
- 公立大学 → 都道府県や市が設置(多くは“公立大学法人”が運営)
行政が直接責任を負う形で運営されるため、学校法人が関与することはありません。
● 公立学校の運営方法(誰が管理しているのか)
運営の中心は、地方公共団体(自治体)です。
- 教職員の採用・配置
- 校舎や設備の整備・維持
- 教育方針の策定
- 予算の配分
- 給食や通学区域などの管理
これらはすべて自治体(教育委員会)が行います。
つまり、公立学校は 地域社会全体の教育インフラとして行政が運営する学校 なのです。
● 公立学校の資金調達のしくみ(主に税金で運営)
公立学校の最大の特徴は、税金(公費)によって運営されていること です。
🔶 主な財源
- 国の交付金(義務教育費国庫負担金など)
- 地方自治体の一般財源(住民税・固定資産税など)
- 地方交付税交付金
- 授業料(公立高校・公立大学)
🔶 ほとんどの学校では“授業料だけでは運営できない”
特に義務教育(小・中学校)は授業料無料であるため、運営費の大半は国と自治体が負担しています。
高校や公立大学では授業料がありますが、これも運営費全体の一部にすぎず、多くは税金によって支えられています。
● 私立(学校法人)との資金面の違い
| 項目 | 公立学校 | 私立学校(学校法人) |
|---|---|---|
| 主要財源 | 税金(公費) | 授業料・寄附金・補助金 |
| 設置主体 | 国・自治体 | 学校法人 |
| 授業料 | 無料〜比較的低額 | 公立より高め |
| 施設整備 | 予算は自治体 | 学校法人が負担 |
公立は「税金で地域の教育を守る」
私立は「法人が独自の教育を提供する」
という明確な役割の違いがあります。
● 公立大学は “公立大学法人” が運営するケースが多い
大学だけは特例的に、自治体が設置した法人が運営を担っています。
- 国家 → 国立大学法人(東京大学など)
- 自治体 → 公立大学法人(横浜市立大学、大阪公立大学など)
- 私立 → 学校法人(早稲田大学、関西大学など)
どれも非営利ですが、設置主体と目的が異なる点がポイントです。
専門学校(専修学校)との関係は?
大学や短期大学とは異なり、専門学校(正式名称:専修学校)は、学校法人でなくても設置できる教育機関です。
ここでは、その理由や仕組み、学校法人との違いを整理します。
● 専門学校は“学校法人でなくても”設置できる
専門学校は「学校教育法第134条」で定められた教育機関ですが、大学のように学校法人が必須ではありません。
🔶 専門学校の設置主体
- 学校法人
- 株式会社
- 医療法人
- 社会福祉法人
- NPO法人
- 個人
など、条件を満たせば幅広い主体が設置できます。
これは、専門学校が「高等教育」ではなく、職業教育を中心とした 実務的な教育機関 と位置づけられているためです。
● なぜ大学は学校法人が必須なのに、専門学校は違うのか?
① 目的が異なる
- 大学 → 学術研究・高度な教育(公益性が高い)
- 専門学校 → 職業訓練・スキル習得(多様な設置主体に対応可能)
② 歴史的背景
専門学校は、戦後の職業訓練を担ってきた経緯があり、多様な事業者が参入できる枠組みで整備されてきました。
③ 公費依存度が低い
大学ほど大規模な補助金や国費が投入されないため、設置主体の幅が広く認められています。
● 学校法人が設置する専門学校も数多くある
すべての専門学校が株式会社などで運営されているわけではありません。
むしろ、
- 美容
- 看護
- 情報処理
- デザイン
- 調理
などの分野では、学校法人が運営する専門学校も多く、施設や教育に安定性があるとして選ばれています。
● 専門学校の設置基準は“非常に厳しい”
学校法人でなくても設置できるとはいえ、参入ハードルは低くありません。
🔶 主な基準
- 一定面積の校舎・実習室
- 専任教員の人数
- 2年以上の課程(専門課程の場合)
- 教科内容の明確な教育計画
- 実習設備の整備
これらが国の基準を満たさないと「専門学校」と名乗ることができません。
● 専門学校を学校法人が運営する場合のメリット
- 社会的信用が高い
- 公的な補助金を受けやすい
- 長期的な教育体制を整えやすい
そのため、専門学校でも 学校法人が運営するとブランド力が増す という傾向があります。
学校法人のメリット・デメリット
学校法人は、営利企業とは異なる「非営利法人」として教育を支える仕組みを持っています。
ここでは、学校法人の特徴をより明確に理解できるよう、メリットとデメリットを整理して解説します。
● 学校法人のメリット
① 社会的信用が高い
学校法人は、一定の財産基準・教育体制・運営体制をクリアした法人であり、国や自治体の認可を受けています。
そのため、一般企業よりも信頼性が高く、長期的な教育機関として評価されやすい点が強みです。
② 税制上の優遇がある
学校法人には、次のような税制優遇が適用されます。
- 法人税の非課税(教育活動に伴う収益)
- 不動産取得税・固定資産税の軽減
- 寄附金控除を受けやすい
これらの優遇により、教育に必要な資金を確保しやすくなっています。
③ 公的補助金を受けられる
私立学校には、国や自治体から「私学助成金」が交付され、教育環境の維持・充実が支援されます。
これは、私立学校も公教育を担っているという考えに基づくものです。
④ 長期的な教育投資ができる
利益が個人に分配されないため、
- 校舎整備
- 設備投資
- 教員の確保
など、教育の質を高めるための長期的な投資が可能です。
● 学校法人のデメリット
① 利益を分配できないため、投資を集めにくい
学校法人には株主がいないため、外部投資家から資金を集めることができません。
そのため、財政基盤が弱い法人では経営改善が難しく、資金繰りが厳しくなるケースもあります。
② 財務や運営が厳しく監督される
学校法人は
- 文部科学省
- 都道府県
- 評議員会
- 理事会
など多くの機関によって監督・チェックされます。
公益性が高い分、透明性が求められ、経営の自由度が低いという側面があります。
③ 経営悪化のリスクが大きい
少子化で学生数が減ると、授業料収入が減り、経営状態が一気に悪化します。
株式会社のように事業転換しにくいため、法人の統合・学校の閉鎖に発展することもあります。
学校法人の運営はどうやって成り立っている?
学校法人は「非営利法人」ですが、学校を運営するには多額の資金が必要です。
ここでは、学校法人がどのように資金を得て、どのように使っているのかを解説します。
● 学校法人の主な収入源(どこからお金が来るの?)
学校法人の運営は、複数の財源で成り立っています。
① 授業料・入学金(もっとも大きな収入源)
学生からの授業料収入は、学校法人にとって中心的な収入です。
少子化によって授業料収入が減ると経営が悪化しやすいのはこのためです。
② 私学助成金(国や自治体からの補助金)
私立学校も公教育を担っているため、国や自治体から「私学助成金」が交付されます。
- 経常費補助金
- 施設整備費補助金
など、教育の質を確保するために必要な支援が行われています。
③ 寄附金・募金
卒業生や保護者、企業などからの寄附も重要な財源です。
学校法人は寄附金の税制優遇を受けやすく、多くの学校で基金が設置されています。
④ 研究費・受託研究・共同研究収入
大学では、研究活動に関連する収入が大きくなる場合があります。
⑤ 付属施設の収益
図書館、附属病院、保育園、研修施設などからの収益がある法人もあります。
● 学校法人の主な支出(お金はどこに使われている?)
学校法人が支出する項目は、教育の質を保つためのコストが中心です。
① 教職員の給与(最大の支出)
学校運営でもっとも大きな支出であり、教員・事務職員などの人件費が大きな割合を占めます。
② 校舎・設備の整備・維持管理
- 校舎の新築、増築
- エアコン、ICT設備の導入
- 実験室・体育館・図書館の維持
など、教育環境を整えるための支出です。
③ 教育活動に必要な費用
- 教材費
- 行事の運営費
- 研究活動費
- 実習費
など、日々の教育活動に必要な費用が含まれます。
④ 奨学金や学生支援
独自の奨学金制度や特待制度を設ける学校法人も多く、学生支援は支出の重要な項目です。
● 利益(余剰金)が出ても分配されない仕組み
学校法人は非営利であるため、たとえ余剰金が出ても出資者や理事に分配されることはありません。
余剰金の使い道は、
- 新校舎の建築
- 設備投資
- 奨学金制度の充実
- 法人の長期的な財務安定
など、すべて学校の将来のために使われます。
株式会社のように利益が個人に流れないため、教育に必要な資金が継続的に学校内に残る仕組みになっています。
● 公立学校との比較でわかる学校法人の特徴
公立学校は税金で運営されますが、私立学校(学校法人)は次の特徴があります。
- 資金源が「授業料・寄附・補助金」の3本柱
- 経営が法人の判断に委ねられている
- 少子化による入学者減の影響をダイレクトに受ける
こうした点から、学校法人は「自立した経営能力」が求められる教育法人と言えます。
近年の課題:少子化と大学経営の現実
学校法人を取り巻く環境は、いま大きく変化しています。
特に 少子化の進行 は大学経営に深刻な影響を与えており、多くの学校法人が経営改善を迫られる状況になっています。
● 少子化で入学者が減少し、経営が不安定に
18歳人口はピーク時(1992年)から約半分に減り続けています。
そのため、多くの大学で 定員割れ が起きており、授業料収入が減少しています。
授業料は学校法人にとって中心的な収入源であるため、入学者が減れば経営状態は直接悪化します。
- 定員割れが数年続く
- →収入減
- →教育環境が維持できない
- →さらに志願者が減る
こうした“負の連鎖”に陥る大学も少なくありません。
● 私学助成金だけでは支えきれない現実
国や自治体から私学助成金が出ていますが、少子化による減収を完全に補うほどの額ではありません。
そのため学校法人は次のような対策を迫られています。
- 新学部の開設
- オンライン教育の導入
- 学生獲得のための広報強化
- 外国人留学生の受け入れ拡大
しかし、これらの施策にも多額の投資が必要で、財政が弱い学校ほど対応が難しくなります。
● 経営悪化による統合・閉校が増加
少子化の影響はすでに深刻で、
- 大学の統合
- 法人同士の合併
- キャンパスの縮小
- 学部・学科の廃止
- 最終的な閉校
といった動きが全国で増加しています。
これは学校法人が非営利であるため、利益が思うように出ない状況が続くと立て直しが難しいことが背景にあります。
● 都市部と地方で格差が広がっている
都市部の大学は志願者を確保しやすい一方、地方の大学は定員確保がより困難です。
交通アクセスや就職先の豊富さが志願者の判断に影響するため、地域によって経営環境に大きな差が生まれています。
● 公立大学との競争も激化
公立大学は授業料が比較的安く、自治体からの支援もあるため経営が安定しやすい側面があります。
そのため私立大学は
- 教育内容
- 学習環境
- 就職支援
などで特色を出さなければ勝負できない状況になっています。
● 今後の学校法人に求められる視点
少子化が続く中、学校法人には以下が求められるようになっています。
- 中長期的な経営戦略
- 学生・社会のニーズに対応する教育改革
- 特色ある学部・学科の創設
- 外国人留学生の積極的な受け入れ
- DX教育への対応
学校法人が“教育の質”を維持しながら生き残るには、従来以上に柔軟で持続可能な経営が重要になっています。
まとめ
学校法人は、営利を目的とせず教育の質と継続性を守るために設けられた特別な法人です。
公立学校や専門学校との違いを理解すると、日本の教育制度がどのように支えられているのかが見えてきます。
少子化が進む今、学校法人は経営的な課題に直面していますが、その役割の重要性は変わりません。
教育機関を比較・検討する際は、法人の種類だけでなく、運営方針や教育内容、将来性まで含めて総合的に判断することが大切です。



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