「営利法人」と「非営利法人」と聞くと、
多くの人は「営利=お金儲け」「非営利=儲けてはいけない組織」といったイメージを持つのではないでしょうか。
しかし、この理解は正確ではありません。
非営利法人であっても、実際には収益を上げていますし、病院や学校、NPOなどが“赤字覚悟”で運営されているわけではないのです。
では、営利法人と非営利法人の本当の違いはどこにあるのでしょうか。
その答えは、「利益を出していいかどうか」ではなく、
「出た利益を誰に、どのように使えるか」という点にあります。
この違いを理解すると、株式会社、NPO法人、医療法人、公益法人などの立ち位置が一気に整理され、
「なぜこの法人形態が選ばれているのか」も見えてくるようになります。
本記事では、営利法人と非営利法人の違いを制度面・目的・利益の扱い方という視点から、初めての方にもわかりやすく解説していきます。
そもそも「営利」と「非営利」はどう違う?
● 営利法人とは何か
営利法人とは、利益を上げ、その利益を構成員に分配することを目的とした法人です。
ここでいう構成員とは、出資者や株主、社員などを指します。
日本の法律上、「会社」と呼ばれるものはすべて営利法人に該当します。
たとえば、
- 株式会社
- 合同会社(LLC)
- 合名会社
- 合資会社
といった会社形態は、いずれも事業によって得た利益を、出資に応じて分配できる という共通点を持っています。
つまり営利法人の本質は、「お金を稼ぐこと」そのものではなく、稼いだ利益を私的に分け合える仕組みを持っていることにあります。
● 非営利法人とは何か
一方、非営利法人とは、特定の社会的・公共的な目的を達成することを主目的とした法人です。
非営利法人には、
- 一般社団法人・一般財団法人
- NPO法人
- 医療法人
- 学校法人
- 社会福祉法人
- 公益社団法人・公益財団法人
など、さまざまな種類があります。
これらに共通しているのは、利益を構成員に分配することが法律で禁止されているという点です。
ただし、ここで重要なのは、
非営利法人 = 利益を出してはいけない法人
ではない、ということです。
非営利法人であっても、事業を行い、収益を上げることは認められています。
その利益は、配当として分けるのではなく、法人の目的を達成するために再び使われるという点が、営利法人との決定的な違いです。
最大の違いは「利益配分ができるかどうか」
● よくある誤解:「非営利=儲けてはいけない?」
営利法人と非営利法人を混同してしまう最大の原因が、この誤解です。
多くの人は、
- 営利法人 → 利益を出す
- 非営利法人 → 利益を出してはいけない
と考えがちですが、これは正しくありません。
正確に言うと、
- ⭕ 非営利法人でも利益を出すことはできる
- ❌ その利益を構成員に分配することはできない
というのが制度上のルールです。
たとえば、医療法人や学校法人が黒字決算になることは珍しくありません。
しかし、その利益を理事や関係者が自由に分け合うことは認められていません。
利益はあくまで、
- 施設や設備の充実
- サービスの質の向上
- 将来の事業継続のための内部留保
といった形で、法人の目的のために使われることになります。
● 利益の扱いで見る「営利」と「非営利」の決定的な差
営利法人と非営利法人の違いは、目的やイメージではなく、利益の行き先にあります。
文章で整理すると、次のようになります。
営利法人の場合
事業で得た利益は、→ 株主や出資者に配当として分配できる
非営利法人の場合
事業で得た利益は、→ 法人の内部に留保し、活動目的のために再投資する
つまり、
- 利益を「分けてよい」か
- 利益を「目的のために使うしかない」か
この一点が、制度上の決定的な違いです。
この違いを押さえておけば、
- なぜ株式会社は投資を受けやすいのか
- なぜNPO法人や公益法人に信頼性が求められるのか
といった点も、自然に理解できるようになります。
「非営利」でも収益事業を行う理由
● なぜ非営利法人もお金を稼ぐのか
非営利法人と聞くと、寄付や補助金だけで運営されているイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし実際には、ほとんどの非営利法人が何らかの収益事業を行いながら運営されています。
その理由はシンプルで、安定した活動を続けるためには、継続的な資金が必要だからです。
たとえば、
- 職員やスタッフの人件費
- 施設や設備の維持費
- 事業を続けるための運転資金
こうした支出は、寄付や助成金だけでは賄いきれないケースが多く、収益事業を通じて資金を確保することが現実的な選択となります。
非営利法人にとって、お金を稼ぐことは目的ではなく、活動を続けるための手段なのです。
● 実例で見る非営利法人の収益活動
非営利法人が行っている収益活動を、具体例で見てみましょう。
- 医療法人
診療や治療による診療報酬が主な収入源 - 学校法人
授業料・入学金・施設利用料など - NPO法人
物販、イベント開催、業務委託、受託事業 - 公益法人
講座やセミナー、施設利用料、受託事業
いずれの場合も、収益そのものは認められていますが、その利益を配当として分配することはできません。
得られた利益は、
- サービスの質の向上
- 活動範囲の拡大
- 将来の安定運営
といった形で、法人の目的達成のために再び使われます。
この点を理解すると、「非営利なのにお金を取っているのはおかしい」といった疑問は、制度上の誤解であることがわかるはずです。
税金や優遇措置の違い
● 営利法人の税制の基本
営利法人(株式会社など)は、利益を上げることを前提とした法人であるため、原則として法人税が課されます。
基本的な考え方はシンプルで、
- 事業で利益が出た → その利益に対して法人税がかかる
という仕組みです。
また、株式会社の場合は、
- 法人段階で法人税
- 配当を受け取った個人段階で所得税
という いわゆる「二重課税」 が生じる点も特徴です。
これは、利益を出資者に分配できる仕組みと引き換えに課される制度だと考えると理解しやすいでしょう。
● 非営利法人の税制の特徴
非営利法人の場合、税制の考え方は少し異なります。
まず押さえておきたいのは、
非営利法人 = すべて非課税
ではない、という点です。
多くの非営利法人では、
- 本来の目的に沿った活動
- 法律で定められた「非収益事業」
については、法人税が課されない、または軽減されるケースがあります。
一方で、
- 物販
- 受託事業
- 広告収入など
収益事業と位置づけられる活動については、営利法人と同様に課税されることもあります。
特に公益社団法人・公益財団法人など、公益性が高いと認められた法人ほど、税制上の優遇措置が手厚くなる傾向があります。
つまり税制面でも、
「営利か非営利か」
ではなく
「その活動がどの性質を持つか」
が重視されているのです。
営利・非営利の違いは「善悪」ではない
● どちらが正しい・偉いという話ではない
営利法人と非営利法人の違いを説明すると、つい「どちらが良いのか」という評価の話にすり替わりがちです。
しかし、営利と非営利は優劣や善悪で比べるものではありません。
それぞれ、社会の中で担っている役割が異なります。
- 営利法人
利益を上げることで雇用を生み、経済を回す役割 - 非営利法人
採算だけでは成り立ちにくい分野を支え、社会課題を担う役割
たとえば、医療・福祉・教育・文化といった分野は、純粋な利益追求だけでは十分に提供できない側面があります。
そうした領域を補完しているのが、非営利法人です。
● 社会は営利と非営利の両方で成り立っている
もし社会に営利法人しか存在しなければ、利益が見込めない分野は切り捨てられてしまうかもしれません。
逆に、非営利法人だけの社会であれば、経済活動の活力が失われ、持続性に問題が生じるでしょう。
つまり、
- 経済を回す営利法人
- 社会を支える非営利法人
この両者が役割分担することで、社会全体のバランスが保たれています。
営利法人と非営利法人は対立する存在ではなく、互いに補い合う関係にあると言えるでしょう。
どんな人がどちらを選ぶべき?
● 営利法人が向いているケース
次のような目的を持っている場合は、営利法人(株式会社・合同会社など)が向いています。
- 利益を出し、その成果を出資者と分けたい
- 投資家や金融機関から資金調達をしたい
- 事業の拡大やスケールを重視したい
- 将来的に事業売却や上場も視野に入れている
営利法人は、利益を分配できる仕組みがあるからこそ、資金が集まりやすい という強みがあります。
その反面、
- 税負担が比較的重い
- 利益が出なければ評価されにくい
といった側面もあります。
● 非営利法人が向いているケース
一方、次のような考えを持っている場合は、非営利法人が選択肢になります。
- 社会的・公共的な目的を最優先したい
- 利益の分配よりも、活動の継続性を重視したい
- 寄付や助成金、補助金を活用したい
- 信頼性や公共性を重視される分野で活動したい
非営利法人は、「儲かるかどうか」よりも「何を実現したいか」 を軸に選ばれる法人形態です。
ただし、
- 法人運営のルールが厳しい
- 利益の使い道に制約がある
といった点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
まとめ|法人選びで迷ったら、まずここを考えてほしい
営利法人と非営利法人の違いを理解すると、「どちらが得か」「どちらが正しいか」といった発想自体が、あまり意味を持たないことに気づくはずです。
大切なのは、あなたが何を実現したいのか、そして その成果を誰のために使いたいのか という点です。
もし、事業で得た利益を出資者と分かち合い、拡大や成長を前提に取り組みたいのであれば、営利法人という仕組みは非常に合理的です。
一方で、社会的な課題の解決や公共的な価値の提供を最優先し、得られた収益をすべて活動に還元したいのであれば、非営利法人という形がしっくりくるでしょう。
法人の種類は、目的を実現するための「道具」にすぎません。
制度の違いを正しく理解したうえで選べば、「思っていたのと違った」という後悔も避けやすくなります。
このシリーズでは、それぞれの法人がどんな役割を担い、なぜその形が選ばれているのかを、個別に解説しています。
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