『赤い指』とは
『赤い指』は、東野圭吾による加賀恭一郎シリーズ第7作目の推理小説であり、加賀が練馬署の刑事として活躍する最後の物語です。本作は、直木賞受賞作『容疑者Xの献身』に続く長編小説として2006年に刊行されました。加賀シリーズの他作品と異なり、視点は主要な登場人物である前原一家に重きを置き、息子の犯罪を隠そうとする家族の姿を描いています。
本作では、前原一家が抱える家庭の闇と、加賀自身の家族問題が並行して語られ、家族のあり方や人間関係の歪みが浮き彫りにされます。加賀の父・隆正の病床での様子や、加賀との確執が描かれることで、これまで断片的だった加賀親子の背景がより深く掘り下げられました。また、加賀の従弟である捜査一課刑事・松宮脩平など、シリーズ後半に登場するキャラクターたちが初めて描かれた点も見逃せません。
短編として発表された作品を長編に書き直し、6年にわたる構想を経て完成した本作は、重厚なテーマと緻密なプロットが高く評価され、テレビドラマ化もされました。家族愛と罪、正義とは何かを問いかける『赤い指』は、読者に深い感慨を与える傑作です。
『赤い指』の あらすじ
平凡なサラリーマンである前原昭夫は、妻の八重子、息子の直巳、そして認知症を患う母親の政恵と4人で暮らしていた。しかし家庭内の関係は冷え切っており、昭夫にとって家は決して安らぎの場ではなかった。ある日、八重子から「早く帰ってきてほしい」という切迫した電話が入り、昭夫が急いで帰宅すると、庭には黒いビニール袋に包まれた幼女の遺体があった。直巳が家に連れ込んだ少女を殺害してしまったのだ。
昭夫は警察に通報しようとするが、八重子は息子の将来を案じて事件の隠蔽を懇願。やむなく昭夫は、少女の遺体を深夜に近くの公園に遺棄することを決断する。しかし翌朝、遺体はすぐに発見され、練馬署の刑事・加賀恭一郎と本庁捜査一課の松宮脩平が事件の捜査に乗り出す。
加賀は緻密な聞き込みの末、前原家に疑念を抱くようになる。一方、事件を追い詰められた昭夫は、最終的に罪を認知症の母・政恵になすりつけるという非道な行動に出る。しかし加賀は鋭い洞察力で、政恵の「赤い指」の謎を解き明かし、事件の真相に迫る。
また、加賀の父・隆正が末期ガンで入院しているにもかかわらず、一度も見舞いに訪れない加賀の態度に松宮は困惑する。物語の終盤、加賀は前原家の事件解決に挑みつつ、自身の父との確執にも向き合い、親子の絆を修復していく。罪を犯した家族と、その家族に寄り添う警察官。それぞれの立場から「家族とは何か」を問いかける感動のミステリーが展開される。
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