「監査法人」と「公認会計士」。
ニュースや決算書でよく目にする言葉ですが、両者の違いを正確に説明できる人は意外と多くありません。
「監査法人って会社なの?」
「公認会計士がいれば監査法人はいらないのでは?」
そんな疑問を持ったことがある方もいるでしょう。
実はこの2つは、役割も立場も法律上の位置づけもまったく異なる存在です。
特に、上場企業や大企業の監査においては、この違いを理解しているかどうかで、監査制度の見え方が大きく変わってきます。
この記事では、
- 公認会計士とは何者なのか
- 監査法人がなぜ必要とされているのか
- 両者はどこがどう違うのか
といったポイントを、専門用語をできるだけ使わずに整理します。
「監査」や「会計」が初めての方でも、ニュースや企業不祥事の背景が理解できる視点が身につく内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
公認会計士とは?|資格を持つ「個人」
公認会計士とは、企業の会計や財務内容が正しく処理されているかをチェックするための国家資格を持つ専門家です。
医師や弁護士と同じように、個人として資格を付与され、専門知識をもとに業務を行います。
企業活動においては、利益や資産の額が正しく計算されているかどうかが、投資家や取引先の判断材料になります。
公認会計士は、そうした数字の信頼性を第三者の立場から確認する役割を担っています。
● 公認会計士の基本的な位置づけ
公認会計士は「人」に与えられる資格であり、それ自体が組織や会社を意味するものではありません。
資格を取得した後は、
- 独立して個人事務所を開業する
- 会計事務所や監査法人に所属する
- 企業内で専門職として働く
など、さまざまな働き方があります。
いずれの場合も、公認会計士本人が専門家としての責任を負い、判断や業務を行う点が特徴です。
● 公認会計士ができる主な業務
公認会計士の代表的な業務には、次のようなものがあります。
- 企業の会計監査・財務諸表のチェック
- 決算書や会計処理に関するアドバイス
- 税務申告や経営に関するコンサルティング
中でも「会計監査」は、公認会計士にしか認められていない独占業務であり、企業の信頼性を支える重要な役割です。
● 個人の公認会計士が監査を行うケース
公認会計士は個人でも監査業務を行うことができます。
ただし、その対象は主に、
- 中小企業
- 非公開会社
- 任意で監査を受ける企業
などに限られるのが一般的です。
上場企業のように社会的影響が大きい会社の場合、個人一人で監査を完結させることは現実的ではなく、法律上も認められていません。
この点が、次に説明する「監査法人」が必要とされる大きな理由につながっていきます。
監査法人とは?|公認会計士が集まった「組織」
監査法人とは、複数の公認会計士が集まり、組織として会計監査を行うために設けられた法人です。
一般的な株式会社や合同会社とは異なり、営利を目的としない、法律で定められた特別な法人形態となっています。
特に、上場企業や金融機関など、社会的影響の大きい企業の監査は、個人ではなく監査法人が行うことが原則とされています。
● 監査法人の基本的な位置づけ
監査法人は、公認会計士法に基づいて設立される法人です。
構成員はすべて公認会計士であり、監査業務そのものは、法人に所属する公認会計士が担当します。
ただし、外部から見ると「監査法人が監査した」と表現されるように、責任の主体は個人ではなく法人として扱われます。
この仕組みにより、特定の会計士個人に依存しない、安定した監査体制が確保されています。
● なぜ「法人」である必要があるのか
監査が法人で行われる最大の理由は、信頼性と継続性の確保にあります。
- 長期間にわたる監査の継続
- 複数人によるチェック体制
- 専門分野ごとの分業
といった要素は、個人では対応が難しく、組織だからこそ可能になります。
また、一人の判断ミスや不正がそのまま監査結果に反映されないよう、内部で相互に監視・確認する仕組みが設けられている点も重要です。
● 監査法人が行う主な業務
監査法人の中心的な業務は、次のようなものです。
- 上場企業の法定会計監査
- 金融商品取引法に基づく監査
- 大企業・金融機関の継続的な監査業務
これらは、企業の財務情報を信頼できるものとして社会に示すために欠かせない業務です。
なお、監査法人は監査業務を専門とする組織であり、税務や経営コンサルティングについては、業務の独立性を保つため制限が設けられている場合があります。
監査法人と公認会計士の違いを比較
監査法人と公認会計士は、どちらも会計監査に関わる存在ですが、
「個人」か「組織」かという点を軸にすると、その違いが非常にわかりやすくなります。
ここでは、役割・監査対象・責任の考え方などを比較しながら整理します。
● 役割・立場の違い
公認会計士は、資格を持った個人の専門家です。
一方、監査法人は、複数の公認会計士が集まって監査を行う組織です。
そのため、
- 公認会計士:個人が専門家として判断・責任を負う
- 監査法人:組織として監査を行い、法人として責任を負う
という立場の違いがあります。
監査の信頼性が特に重視される場面では、個人よりも組織としての体制が求められる傾向があります。
● 監査できる対象の違い
監査の対象にも、明確な違いがあります。
- 公認会計士(個人)
- 中小企業
- 非公開会社
- 任意で監査を受ける企業
- 監査法人
- 上場企業
- 金融機関
- 社会的影響の大きい大企業
上場企業の監査は、原則として監査法人が担当します。
これは、監査の規模や責任の重さを考慮した制度設計です。
● 法律上の位置づけの違い
両者は、法律上の位置づけも異なります。
- 公認会計士
- 公認会計士法に基づく「資格を持つ個人」
- 監査法人
- 公認会計士法に基づく「監査のための法人」
さらに、上場企業の監査については、金融商品取引法の規定も関係してきます。
その結果、「誰が」「どの範囲まで」監査できるかが、法律によって明確に区分されています。
● 比較表|監査法人と公認会計士の違い
| 項目 | 公認会計士 | 監査法人 |
|---|---|---|
| 立場 | 資格を持つ個人 | 公認会計士が集まった組織 |
| 法的性質 | 国家資格 | 公認会計士法に基づく法人 |
| 主な監査対象 | 中小・非公開企業 | 上場企業・大企業 |
| 責任の主体 | 個人 | 法人(組織) |
| 監査体制 | 原則1人 | 複数人・分業体制 |
| 継続性 | 個人に依存 | 組織として継続 |
なぜ上場企業は「監査法人」が必要なのか
上場企業の会計監査は、原則として監査法人が担当します。
これは単なる慣習ではなく、企業活動が社会全体に与える影響の大きさを踏まえた、制度上の必然と言えます。
● 社会的影響の大きさ
上場企業の財務情報は、
- 投資家の投資判断
- 株価の形成
- 金融市場の信頼性
に直結します。
もし会計情報に誤りや不正があれば、その影響は一企業にとどまらず、市場全体や多くの人の資産にまで及ぶ可能性があります。
そのため、上場企業の監査には、より高い水準の客観性と信頼性が求められます。
● 個人監査ではカバーしきれない理由
個人の公認会計士が優れていたとしても、上場企業の監査を一人で担うのは現実的ではありません。
理由としては、
- 取引量・データ量が非常に多い
- 会計・IT・内部統制など専門分野が多岐にわたる
- 短期間で正確な判断が求められる
といった点が挙げられます。
監査法人であれば、複数の会計士が分業し、相互にチェックしながら監査を進める体制を構築できます。
● 監査法人に求められる独立性と信頼性
監査において最も重要なのが、企業からの独立性です。
監査法人には、
- 特定の担当者に権限が集中しない体制
- 内部での品質管理・レビュー制度
- 長期間同じ企業を監査し続けないためのローテーション
などが制度として求められています。
これらは、「なれ合い」や「見逃し」を防ぎ、監査の信頼性を社会に示すための仕組みです。
よくある誤解と勘違い
監査法人と公認会計士については、言葉だけが一人歩きし、実態とは異なるイメージを持たれていることも少なくありません。
ここでは、特に多い誤解を整理しておきます。
● 「監査法人=株式会社」ではない
監査法人は「法人」とついていますが、株式会社や合同会社のような営利企業ではありません。
監査法人は、利益を最大化することよりも、監査の公正性・中立性を確保することが最優先されます。
そのため、
- 株主が存在しない
- 配当を目的としない
- 業務内容も法律で厳しく制限されている
といった特徴があります。
「会社っぽい名前=営利企業」と考えてしまうのは、よくある勘違いの一つです。
● 「公認会計士は一人では監査できない?」
公認会計士は、一人でも監査を行うこと自体は可能です。
実際、中小企業や非公開会社では、個人の公認会計士が監査を行うケースもあります。
ただし、
- 上場企業
- 金融商品取引法の対象となる企業
については、監査法人による監査が原則とされています。
「できるかどうか」と「制度として求められているか」は別、という点を押さえておくことが大切です。
● 「監査法人でも不祥事は起こる?」
残念ながら、監査法人であっても不祥事が起こることはあります。
これは、どれだけ制度を整えても、最終的に判断を下すのは人である以上、完全にリスクをゼロにすることはできないためです。
ただし重要なのは、不祥事が起きた場合の影響と対応の仕組みです。
監査法人の場合、
- 組織としての責任追及
- 業務改善命令や登録取消し
- 再発防止の制度強化
といった対応が行われ、社会全体で信頼回復を図る仕組みが用意されています。
これまでの記事とのつながり
「監査法人と公認会計士の違い」は、監査制度全体を理解するうえでの中間地点のようなテーマです。
ここまでの記事とあわせて読むことで、監査の仕組みが立体的に見えてくるようになります。
● 会計監査とは?との関係
会計監査は、企業の財務諸表が正しく作成されているかを確認する制度です。
その実務を担うのが、公認会計士であり、上場企業などでは監査法人という組織を通じて実施されます。
👉 「誰が監査をするのか」という疑問への答えが、本記事のテーマにつながっています。
● なぜ監査が必要なのか?との関係
監査は、不正や誤りを防ぎ、企業活動への信頼を支えるための仕組みです。
その信頼性を担保するために、個人ではなく組織としての監査法人が求められる場面があることが、本記事で説明したポイントです。
● 内部監査・監査役監査との違い
- 内部監査:企業内部のチェック
- 監査役監査:会社法に基づく内部統制の監視
- 会計監査(公認会計士・監査法人):外部からの独立した監査
それぞれの監査が役割分担していることを理解すると、監査法人の立ち位置がより明確になります。
まとめ|「個人」と「組織」の違いを理解しよう
公認会計士と監査法人は、同じ会計監査に関わる存在でありながら、その立場や役割は大きく異なります。
公認会計士は、専門資格を持つ個人の専門家であり、中小企業や非公開会社などの監査を担うことがあります。
一方、監査法人は、複数の公認会計士が集まった監査のための組織で、上場企業や社会的影響の大きい企業の監査を担当します。
企業の規模や影響力が大きくなるほど、個人の判断に依存しない、組織としてのチェック体制が求められます。
ニュースや決算書で監査法人の名前を見かけたとき、
「なぜこの会社は監査法人なのか」という視点を持つことで、企業活動や不祥事報道の理解が、より一段深まるはずです。







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