会社の不正や不祥事がニュースになるたびに、
「社内で誰もチェックしていなかったのだろうか?」
と疑問に感じたことはありませんか。
株式会社には、経営者である取締役の行動を監視し、
会社が正しく運営されているかを見守るための制度として「監査役監査」 が設けられています。
監査役監査は、会計監査や内部監査とは役割が異なり、取締役の職務執行そのものをチェックする法定監査です。
経営の暴走や法令違反を防ぐ“ブレーキ役”として、会社のガバナンスを支える重要な仕組みといえます。
本記事では、
「監査役監査とは何か」
「誰が・何を・なぜ監査するのか」
を軸に、他の監査との違いや実務上のポイントまで、初めての方にも分かりやすく解説していきます。
監査役監査とは?
● 監査役監査の基本的な定義
監査役監査とは、株式会社において監査役が行う法定の監査のことです。
会社法に基づいて設けられている制度で、取締役が行う業務や意思決定が、法令や定款に違反していないかをチェックする役割を担っています。
ここで重要なのは、監査役監査の対象が「会社の経営そのもの」ではなく、「取締役の職務執行」である点です。
監査役は経営判断に直接口出しをする立場ではありませんが、取締役が違法行為や不当な行為を行っていないかを監視し、必要に応じて是正を求めたり、意見を述べたりする権限を持っています。
● 会社法に基づく「法定監査」
監査役監査は、会社が任意で行う監査ではなく、会社法によって制度として定められた「法定監査」です。
とくに、
- 大会社
- 公開会社
- 監査役設置会社
などでは、監査役の設置や監査体制が法律上求められます。
この点で、社内ルールに基づいて行われる内部監査や、会計の専門家が行う会計監査とは位置づけが異なります。
監査役監査は、
「会社の中に、取締役とは独立したチェック役を置く」
こと自体に大きな意味がある制度なのです。
● 公開会社とは?
🔶「公開会社=上場企業」ではない
会社法における「公開会社」とは、株式の譲渡に制限を設けていない株式会社を指します。
一般的にイメージされがちな「株式を公開している会社」「上場している会社」という意味ではありません。
🔶株式の譲渡制限の有無で決まる
公開会社かどうかは、株式を自由に売買できるかどうかで判断されます。
- 株式の譲渡に会社の承認が必要
→ 非公開会社(譲渡制限会社) - 株式を自由に譲渡できる
→ 公開会社
この違いは、定款の定めによって決まります。
● 上場・非上場との関係
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 公開会社 | 株式の譲渡制限がない |
| 非公開会社 | 株式の譲渡に制限がある |
| 上場会社 | 証券取引所に株式を上場 |
| 非上場会社 | 証券取引所に未上場 |
上場会社は必ず公開会社ですが、公開会社であっても上場していない会社は多数存在します。
● なぜ公開会社は監査体制が重視されるのか
公開会社では、株主が不特定多数になりやすく、経営の透明性とチェック体制がより強く求められます。
そのため会社法では、公開会社に対して
- 監査役の権限強化
- ガバナンス体制の整備
といった仕組みを求めており、監査役監査が重要な役割を果たすのです。
監査役の役割とチェック内容
● 監査役の基本的な役割とは?
監査役の最大の役割は、取締役が行う職務執行を第三者的な立場で監視・チェックすることです。
取締役は会社の経営判断や業務執行を担いますが、その権限が大きい分、判断を誤ったり、意図せず法令や定款に反する行為をしてしまうリスクもあります。
そこで監査役は、
- 取締役の行為が法令・定款に違反していないか
- 会社に著しい不利益を与える判断が行われていないか
を常に確認し、必要に応じて意見を述べたり、是正を求めたりします。
● 監査役がチェックする主な内容
監査役監査でチェックされる主なポイントは、「数字」よりも 行為やプロセス にあります。
具体的には、次のような点です。
- 取締役会の意思決定が適切に行われているか
- 法令・定款に違反する業務が行われていないか
- 不正や利益相反行為が発生していないか
- 会社に重大な損害を与えるリスクが放置されていないか
このように、経営の中身そのものを広くチェックする役割を担っている点が、監査役監査の大きな特徴です。
● 会計も監査するの?
「監査」と聞くと、売上や決算書をチェックするイメージを持つ方も多いかもしれません。
監査役も会計に関わる部分を確認しますが、専門的な会計監査そのものを行うわけではありません。
- 会計の専門監査
→ 会計監査人(公認会計士など) - 取締役の職務全体の監査
→ 監査役
という役割分担が基本です。
ただし監査役は、会計監査人の監査が適切に行われているかを確認し、必要に応じて意見交換や連携を行います。
監査役監査はなぜ必要なのか?
● 取締役をチェックする人が必要だから
株式会社では、取締役が会社の経営や業務執行について大きな権限を持っています。
しかし、権限を持つ人をチェックする仕組みがなければ、経営判断が独断的になったり、不正が見逃されたりするリスクが高まります。
そこで設けられているのが、取締役から独立した立場で監視を行う監査役です。
監査役監査は、
- 経営の透明性を確保する
- 権限の集中を防ぐ
- 経営判断の健全性を保つ
ための、会社法上の重要な安全装置といえます。
● 経営の暴走を防ぐブレーキ役
監査役は、取締役の経営判断そのものに口出しする立場ではありません。
しかし、
- 明らかに法令に違反している
- 会社に重大な損害を与えるおそれがある
と判断した場合には、取締役に対して意見を述べたり、是正を求めたりする権限を持っています。
この存在があることで、取締役は常に「監査されている」という意識を持ちながら職務を遂行することになります。
結果として、不正や不祥事の抑止効果が期待されるのです。
● 株主や利害関係者を守る役割
監査役監査が守っているのは、会社そのものだけではありません。
- 株主
- 従業員
- 取引先
- 社会全体
といった、会社に関わる多くの利害関係者の利益を守る役割も担っています。
とくに公開会社や大会社では、株主が不特定多数になるため、経営を内部から監視する仕組みが不可欠です。
監査役監査は、会社への信頼を支える重要な制度の一つなのです。
他の監査との違いを整理する
● 内部監査との違い
監査役監査と内部監査は、どちらも「社内をチェックする仕組み」ですが、立場と目的が大きく異なります。
内部監査は、会社の内部組織として行われる監査です。
- 業務が社内ルールどおり行われているか
- 業務効率やリスク管理に問題がないか
といった点を確認し、経営改善につなげることが主な目的です。
一方、監査役監査は、
- 会社法に基づく法定監査
- 取締役から独立した立場
- 経営の適法性をチェック
という特徴があります。
つまり、
- 内部監査 → 経営を支えるための監査
- 監査役監査 → 経営を監視するための監査
という位置づけの違いがあります。
● 会計監査との違い
会計監査は、決算書や会計処理が正しく行われているかを専門的にチェックする監査です。
この監査を行うのは、公認会計士や監査法人などの会計の専門家(会計監査人)です。
監査対象は主に、
- 財務諸表
- 会計処理のルール遵守
といった「数字」に関する部分です。
一方、監査役監査の対象は、
- 取締役の意思決定
- 業務執行のプロセス
- 法令・定款違反の有無
など、経営行為そのものにあります。
● 3つの監査の役割を整理すると
文章だけでは分かりにくいため、ここで簡単に整理しておきましょう。
| 種類 | 主な監査主体 | 目的 | 監査対象 |
|---|---|---|---|
| 監査役監査 | 監査役 | 経営の適法性確保 | 取締役の職務執行 |
| 内部監査 | 社内組織 | 業務改善・統制 | 業務プロセス全般 |
| 会計監査 | 公認会計士等 | 財務の信頼性確保 | 決算・会計処理 |
このように、それぞれの監査は役割が重ならないように設計されており、組み合わさることで会社全体の健全性が保たれています。
どんな会社に監査役は置かれるの?
● 監査役設置会社とは?
監査役監査は、すべての株式会社で必ず行われるわけではありません。
会社法では、一定の条件を満たす会社について監査役の設置が義務付けられています。
このような会社を「監査役設置会社」 と呼びます。
監査役設置会社では、取締役とは別に監査役を置き、会社の経営をチェックする体制を整える必要があります。
● 監査役の設置が義務となる主なケース
監査役の設置が義務となるのは、主に次のような会社です。
- 大会社
- 公開会社
- 会社法で監査役設置が求められる株式会社
とくに大会社では、事業規模が大きく社会的影響も大きいため、監査役によるチェック体制が不可欠とされています。
※ここでいう「公開会社」は、株式を上場している会社ではなく、株式の譲渡に制限がない会社を指します。
● 中小企業でも監査役は必要?
中小企業の場合、法律上、必ずしも監査役を置かなければならないわけではありません。
ただし、
- 株主が複数いる
- 経営と所有が分かれている
- ガバナンスを重視したい
といった場合には、任意で監査役を設置するケースもあります。
とくに将来的に、
- 株式の譲渡を自由にしたい
- 外部からの出資を受けたい
と考えている場合には、早い段階から監査体制を整えておくことが経営の信頼性向上につながります。
監査役監査の限界と注意点
● 監査役監査は「万能」ではない
監査役監査は、会社の不正や不祥事を防ぐ重要な制度ですが、すべての問題を未然に防げる万能な仕組みではありません。
監査役は、取締役の職務執行を監視する立場にありますが、
- 経営判断そのものを代行する
- 業務の細部まで常時把握する
といった役割までは担っていません。
あくまで、「監視・是正を促す立場」である点を理解しておく必要があります。
● 情報提供が不十分だと機能しにくい
監査役が適切に監査を行うためには、取締役や社内からの正確で十分な情報提供が欠かせません。
しかし、
- 重要な情報が共有されない
- 意図的に報告が遅らされる
といった状況が続くと、監査役監査は十分に機能しなくなってしまいます。
そのため実務では、
- 取締役会への出席
- 内部監査部門との連携
- 会計監査人との情報共有
などを通じて、情報の流れを確保する工夫が重要になります。
● 「名ばかり監査役」にならないために
形式的に監査役を置いているだけで、実質的な監査が行われていない状態は「名ばかり監査役」と呼ばれることがあります。
このような状態では、
- 不正の抑止効果が弱まる
- ガバナンスが形骸化する
といった問題が生じやすくなります。
監査役監査を機能させるためには、
- 独立性の確保
- 適切な知識・経験を持つ人材の選任
- 実質的な発言・指摘ができる環境
が欠かせません。
まとめ|監査役監査は「経営を見張る最後の砦」
監査役監査は、株式会社において取締役の職務執行が適切に行われているかを監視する会社法上の重要な監査制度です。
会計監査や内部監査と比べると、目立ちにくい存在ではありますが、
経営の暴走や法令違反を防ぐ「ブレーキ役」として、会社のガバナンスを内側から支えています。
とくに公開会社や大会社では、株主や社会からの信頼を維持するためにも、監査役監査が果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。
監査役監査を正しく理解することは、会社の仕組みやガバナンスを理解する第一歩です。
他の監査制度とあわせて知ることで、企業活動がどのようにチェックされているのかがより立体的に見えてくるはずです。



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