「会社」と聞いて、まず思い浮かぶのは株式会社という人がほとんどではないでしょうか。
実際、日本で最も多く使われている会社形態が株式会社であり、ニュースや街中で目にする企業の多くも株式会社です。
ただし、ここで一つ大切なポイントがあります。株式会社は“会社のすべて”ではありません。
法律上、「会社」には複数の種類があり、株式会社はその中の一つの形態にすぎないのです。
では、なぜ株式会社はこれほどまでに一般的なのでしょうか。
どのような仕組みを持ち、他の会社形態とは何が違うのでしょうか。
この記事では、
- 株式会社の基本的な仕組み
- 株式会社ならではの特徴とメリット・デメリット
- 合同会社や有限会社など、他の会社形態との違い
を、法人や会社に詳しくない方でも理解できるように、順を追ってわかりやすく解説していきます。
株式会社とは?
株式会社とは、株式を発行して資金を集め、事業を行う法人のことです。
出資した人は「株主」と呼ばれ、株主は株式を通じて会社にお金を出します。
一方、会社の経営は、株主から選ばれた取締役などの経営陣が担当します。
このように、お金を出す人(株主)と、経営を行う人(取締役)が分かれているという点が、株式会社の大きな特徴です。
● 株式会社の基本的な定義
株式会社をひとことで表すと、次のようになります。
- 株式を発行して出資を募る会社
- 出資者は「株主」となる
- 株主は原則として経営に直接関与しない
- 経営は取締役などの機関が担う
この仕組みによって、多くの人から少しずつ資金を集めたり、専門的な知識を持つ人に経営を任せたりすることが可能になります。
● なぜ「株式会社」と呼ばれるのか
株式会社という名前は、「株式」という仕組みを使っていることに由来します。
株式とは、会社に出資した証明となるもので、株主はその保有割合に応じて、配当を受け取ったり、会社の重要事項について議決権を行使したりします。
この「株式による出資」という仕組みがあるからこそ、株式会社は他の会社形態と区別され、現在のように広く利用される会社形態となっています。
株式会社の仕組みを理解する
株式会社を正しく理解するうえで欠かせないのが、「株主・会社・経営者」の関係です。
この関係を押さえることで、なぜ株式会社が大規模な事業に向いているのかが見えてきます。
● 株主・会社・経営者の関係
株式会社では、次のような役割分担が行われています。
- 株主
会社に出資をする人。
株式を保有することで、配当を受け取る権利や、株主総会で議決権を行使する権利を持ちます。 - 会社(法人)
株主から集めた資金をもとに、事業活動を行う主体です。
契約や取引は、個人ではなく「会社」として行われます。 - 経営者(取締役など)
株主から選任され、会社の経営を任される立場です。
日々の意思決定や事業運営を担います。
このように、出資する人と、経営する人が分かれているという点が、株式会社の最大の特徴です。
● 「所有」と「経営」が分かれているという特徴
株式会社では、
- 株主は会社を「所有」する立場
- 経営者は会社を「運営」する立場
と役割が分かれています。
そのため、株主自身が経営の専門知識を持っていなくても、適切な人材を経営者として選ぶことで、会社を成長させることができます。
この仕組みは、
- 事業規模の拡大
- 多額の資金調達
- 組織的な経営
を可能にし、株式会社が社会の中で広く利用されてきた理由の一つとなっています。
● 株主総会という意思決定の場
株式会社には、株主総会という重要な機関があります。
株主総会では、
- 取締役の選任・解任
- 定款の変更
- 重要な経営方針の承認
など、会社の根幹に関わる事項が決定されます。
つまり、経営は経営者に任せつつ、最終的な意思決定権は株主が持つというバランスの上で、株式会社は成り立っています。
上場と非上場の違い|株式会社=上場企業ではない
株式会社と聞くと、株式市場に上場している企業を思い浮かべる人は多いかもしれません。
しかし実際には、株式会社であることと、上場していることは別の話です。
日本にある株式会社の大半は、株式市場に上場していない「非上場会社」です。
● 上場とは何か
「上場」とは、会社が発行した株式を、証券取引所で自由に売買できる状態にすることを指します。
上場すると、
- 不特定多数の人が株式を購入できる
- 市場を通じて大規模な資金調達が可能になる
- 社会的な知名度や信用力が高まる
といったメリットがあります。
一方で、厳しい審査や継続的な情報開示、経営の自由度が下がるといった側面もあります。
そのため、すべての株式会社が上場を目指すわけではありません。
● 非上場でも株式会社は成立する
株式会社は、上場していなくても設立・運営できる法人です。
非上場会社の場合、
- 創業者
- 家族
- 役員
- 特定の出資者
など、限られた人たちが株主になります。
株式は発行されていますが、それを市場で自由に売買することはできず、社内や関係者の間で保有されるのが一般的です。
つまり、
株式会社 = 株式を発行する会社
上場 = 株式を市場で公開するかどうか
という関係になります。
● 非上場会社にも株主総会はある
「上場していないなら、株主総会もないのでは?」
と感じる人もいるかもしれません。
しかし、株式会社である以上、非上場会社でも株主総会は法律上必ず存在します。
たとえ、
- 株主が1人だけ
- 家族経営
- 小規模な会社
であっても、株主総会は設置され、会社の重要事項を決定する場となります。
実務上は形式的な場合もありますが、制度としては上場企業と同じ仕組みが採用されています。
● なぜ上場を目指す会社があるのか
上場は、株式会社にとって 義務ではなく「選択肢」です。
会社が上場を目指す主な理由には、
- 多額の資金を調達したい
- 事業を全国・世界規模に広げたい
- 企業としての信用力を高めたい
といった目的があります。
一方で、
- 経営の自由度が下がる
- 情報開示や管理コストが増える
といったデメリットもあるため、規模や目的によってはあえて非上場を選び続ける株式会社も多く存在します。
● 上場は「株式会社の完成形」ではない
ここで押さえておきたいのは、
上場していない株式会社 = 未完成
という考え方は 誤り だということです。
株式会社は、非上場であっても十分に成り立つ法人であり、上場はあくまで 成長戦略の一つ にすぎません。
この点を理解すると、株式会社という仕組みが、非常に柔軟で幅広い用途を持っていることが見えてきます。
株式会社の主な特徴
株式会社には、他の会社形態と比べて特徴的な仕組みがいくつかあります。
ここでは、特に重要なポイントを整理して見ていきましょう。
① 株式によって資金を集められる
株式会社は、株式を発行することで資金を集められる会社です。
出資は株式という形で細かく分けることができるため、
- 少額の出資を多数集める
- 特定の投資家から大きな出資を受ける
といった、柔軟な資金調達が可能になります。
この仕組みは、設備投資や事業拡大など、まとまった資金が必要な場面で大きな強みとなります。
② 出資者は有限責任である
株式会社の株主は、有限責任を負います。
これは、万が一会社が多額の負債を抱えて倒産した場合でも、
株主は 出資した金額を超えて責任を負うことはないという仕組みです。
この有限責任の制度があるからこそ、多くの人が安心して出資でき、資金が集まりやすくなっています。
③ 所有と経営が分離されている
株式会社では、
- 株主:会社を「所有」する立場
- 経営者:会社を「運営」する立場
という役割分担が明確です。
出資者が必ずしも経営の専門家でなくても、適切な人材を経営者として選ぶことで、効率的な経営が可能になります。
この点は、出資者と経営者が一致する合同会社などとの大きな違いの一つです。
④ 組織としての信用力が高い
株式会社は、日本で最も一般的な会社形態であるため、社会的な信用を得やすい傾向があります。
- 金融機関からの融資
- 取引先との契約
- 人材採用
といった場面でも、株式会社であることがプラスに働くことが少なくありません。
株式会社のメリット・デメリット
株式会社は非常に使われている会社形態ですが、万能というわけではありません。
ここでは、株式会社を選ぶうえで知っておきたいメリットとデメリットを整理します。
● 株式会社のメリット
① 資金調達の選択肢が広い
株式会社は、株式を発行できるため、
- 出資による資金調達
- 金融機関からの融資
- 将来的な上場による資金調達
など、資金を集める手段が比較的多い会社形態です。
特に、事業拡大や設備投資を視野に入れている場合には、大きな強みとなります。
② 社会的信用を得やすい
日本では「会社=株式会社」というイメージが強く、取引先や金融機関からの信用を得やすい傾向があります。
- 法人としての認知度が高い
- 契約や取引がスムーズに進みやすい
といった点から、対外的な信用を重視する事業には向いています。
③ 出資者の責任が限定されている
株主は有限責任であるため、万が一会社が失敗しても、出資額以上の責任を負うことはありません。
この仕組みは、
- 出資者のリスクを抑える
- 新たな出資を受けやすくする
という点で、株式会社の普及を支えてきた重要な要素です。
● 株式会社のデメリット
① 設立・運営コストがかかる
株式会社は、
- 設立時の登録免許税
- 定款認証の費用
- 専門家への依頼費用
など、他の会社形態と比べて初期コストが高くなりがちです。
② 事務手続きや義務が多い
株式会社には、
- 株主総会の開催
- 決算手続き
- 書類の作成・保存
といった、法律上の義務が多く課されています。
特に上場企業の場合は、情報開示や内部管理の負担がさらに増します。
③ 経営の自由度が下がる場合がある
株主が増えると、
- 意思決定に時間がかかる
- 経営方針について説明責任が生じる
といった側面も出てきます。
スピード感や柔軟性を重視する場合には、合同会社など、別の会社形態の方が向いていることもあります。
● メリットとデメリットを踏まえて考える
株式会社は、
- 規模拡大を目指す
- 社会的信用を重視する
- 将来的な資金調達を視野に入れる
といった事業には非常に向いています。
一方で、
- 小規模で始めたい
- 手続きやコストを抑えたい
場合には、他の会社形態も含めて検討することが大切です。
他の会社形態との違い
株式会社は会社の代表的な形態ですが、唯一の選択肢ではありません。
ここでは、他の会社形態と比べながら、株式会社の立ち位置を整理していきます。
● 合同会社(LLC)との違い
合同会社は、株式会社と同じく営利を目的とする会社ですが、仕組みや考え方には大きな違いがあります。
主な違いは次のとおりです。
- 株式会社
- 出資者(株主)と経営者が分かれている
- 株式を発行する
- 組織的・大規模経営に向いている
- 合同会社
- 出資者がそのまま経営者になる
- 株式は発行しない
- 少人数・柔軟な経営に向いている
株式会社は「資金を集めて組織として成長する会社」
合同会社は「出資者自身が経営する会社」
と考えるとイメージしやすいでしょう。
● 合名会社・合資会社との違い
合名会社・合資会社は、会社法上は今も設立可能な会社形態ですが、実務で選ばれることはほとんどありません。
その大きな理由の一つが、「無限責任を負う社員が存在する」 点です。
🔶 無限責任とは何か(具体例)
無限責任とは、会社が負った借金や損害について、出資額に関係なく、個人の財産すべてで責任を負うことを意味します。
たとえば、
- 出資額:100万円
- 会社の借金:1億円
- 会社が倒産
という場合でも、無限責任社員は1億円すべてについて返済義務を負います。
預金や給与、不動産など、個人の財産も返済の対象となり、場合によっては個人の生活に大きな影響を及ぼします。
🔶 株式会社との決定的な違い
この点で、株式会社は大きく異なります。
株式会社では、すべての株主が 有限責任 であり、責任は出資した金額の範囲に限定されます。
そのため、
- 出資しやすい
- リスクを抑えられる
- 多くの人から資金を集めやすい
という特徴があります。
🔶 合資会社の場合の責任の分かれ方
合資会社では、
- 無限責任社員:経営の中心を担い、全責任を負う
- 有限責任社員:出資額の範囲で責任を負う
という役割分担がされています。
しかし、誰かが無限責任を負う必要がある という点は変わらないため、現代では選ばれにくい会社形態となっています。
🔶 なぜ現在は選ばれにくいのか
現在では、
- 株式会社や合同会社でも十分な信用がある
- 無限責任を負わなくても事業ができる
ため、あえて個人の財産すべてをリスクにさらす必要がなくなったという背景があります。
この点を理解すると、なぜ多くの会社が株式会社や合同会社を選んでいるのかが、とても自然に理解できます。
● 有限会社(特例有限会社)との違い
有限会社は、現在は新しく設立することができない会社形態です。
2006年の会社法施行により、有限会社は廃止され、既存の有限会社は 「特例有限会社」 として存続しています。
- 株式会社
- 現在も新設可能
- 株式を発行する
- 有限会社(特例)
- 新設不可
- 旧制度のもとで存続
制度上は株式会社に近い部分もありますが、あくまで過去の制度に基づく例外的な存在です。
● 株式会社は「基準」となる会社形態
このように見ていくと、株式会社は、
- 出資と経営を分離できる
- 有限責任が確保されている
- 規模拡大に対応しやすい
という点で、他の会社形態と比較する際の“基準”として位置づけられる会社形態だと言えます。
だからこそ、最初に株式会社を理解することが、会社制度全体を理解する近道になります。
株式会社はどんな人・事業に向いている?
ここまで見てきた特徴を踏まえると、株式会社は、次のような人や事業に向いている会社形態だと言えます。
● 規模拡大や成長を視野に入れている人
株式会社は、
- 株式による出資
- 融資や将来的な上場
など、資金調達の選択肢が比較的広い会社形態です。
将来的に事業を大きくしたい、人や設備への投資を考えている場合には、株式会社は有力な選択肢となります。
● 社会的信用を重視したい事業
株式会社は、日本で最も一般的な会社形態であるため、
- 取引先との契約
- 金融機関からの融資
- 採用活動
といった場面で、信用面で有利に働くことが多いのが特徴です。
対外的な信用を重視する事業には、株式会社が向いています。
● 出資と経営を分けて考えたい人
株式会社では、
- 出資者(株主)
- 経営者(取締役)
の役割を分けることができます。
将来的に、
- 経営を専門家に任せたい
- 自分は出資に専念したい
と考えている場合にも、株式会社の仕組みは適しています。
● 一方で、慎重に考えたほうがよいケース
反対に、
- 小規模で素早く意思決定したい
- 設立・運営コストを抑えたい
- 出資者=経営者で完結したい
といった場合には、合同会社など、別の会社形態の方が合っていることもあります。
まとめ|株式会社は「代表的だが唯一ではない」
株式会社は、日本で最も一般的な会社形態であり、多くの人が「会社=株式会社」とイメージします。
しかし、株式会社はあくまで会社の一形態にすぎず、合同会社やその他の会社形態も法律上きちんと存在しています。
資金調達や信用力を重視し、将来的な事業拡大を視野に入れるなら、株式会社は有力な選択肢となるでしょう。
一方で、規模や目的によっては、他の会社形態の方が適している場合もあります。
大切なのは、「一般的だから選ぶ」のではなく、事業の目的に合った会社形態を選ぶことです。



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