「ばんざーい!」と両手を挙げて喜ぶ――。
誕生日や運動会、スポーツの勝利など、私たちの身近で当たり前のように行われる万歳ですが、実はその意味や起源はあまり知られていません。
本来「万歳」は“長寿や繁栄を祈る祝福の言葉”であり、いまのような両手を挙げる万歳三唱のスタイルは、明治時代に生まれた比較的新しい文化です。
この記事では、万歳の本来の意味から、万歳三唱がどのように生まれ、どのように民間へ広まっていったのかを、わかりやすく解説します。
万歳とは?本来の意味をやさしく解説
「万歳(ばんざい)」という言葉は、現在ではお祝いのときに発する掛け声として知られていますが、本来はまったく別の意味を持っていました。
万歳の語源をひもとくと、“長寿や繁栄を願う祝福の言葉” に行き着きます。
「万」は“非常に多い数”を、「歳」は“年・寿命”を表し、
“一万年生きられるほど、末永く幸福でありますように”
という願いを込めた表現でした。
この言葉は中国から伝わり、古代中国では皇帝を寿ぐ際に用いられた格式の高い祝語でした。
日本でも長寿や繁栄を祈念する「寿(ことほぎ)」の言葉として取り入れられ、かつては天皇や高位の人物への祝辞として使われていました。
つまり、「万歳」はもともと
「相手の幸福と繁栄を願う、敬意のこもった言葉」
であり、現在のようなカジュアルな掛け声ではなかったのです。
日本での「万歳」の変遷
日本に「万歳」という言葉が伝わったのは古代ですが、当初は現在のような掛け声として使われていたわけではありません。
もともと万歳は、中国同様 「天皇や高貴な人物の長寿・繁栄を祈る祝語」 として、儀礼や祝賀の場で用いられていました。
■ 平安〜江戸時代
この時代の「万歳」は、口頭で唱えるものというより、文書や詩歌の中で使われる“雅語(がご)”に近い存在でした。
庶民が日常で叫ぶような言葉ではなく、典礼的・格式的な用途が中心でした。
たとえば、年賀の儀、慶事、祝いの祝詞などで
「~万歳(ばんざい)」
と記されることはあっても、現在のように人々が声を揃えて「ばんざーい!」と叫ぶ習慣はありませんでした。
雅語(がご)とは
日常会話ではあまり使われず、宮中・神事・詩歌・古典文学などで用いられる、上品で格式の高い言葉のこと。
古典的・文語的で、儀礼的な場面にふさわしい語を指します。
■ 明治以前には「掛け声の万歳」は存在しなかった
現代の万歳は、声を出して両手を挙げる“動作を伴う行為”として知られていますが、このスタイルは明治時代以降に生まれたもの で、江戸時代までさかのぼっても類似の習慣は見られません。
つまり、明治以前の日本には
- 万歳=儀式用語・祝福語
- 掛け声としての万歳=存在しない
という明確な違いがあったのです。
この背景を踏まえると、次の「万歳三唱の誕生」が、現代文化にどれだけ大きな影響を与えたかが見えてきます。
万歳三唱は誰が考案した?生まれた背景
今日では、祝賀の場で当たり前のように行われている「万歳三唱」。
しかし、この形式は古代から続く自然発生の文化ではなく、明治時代に考案された比較的新しいスタイルです。
最も有力な説として広く知られているのが、明治の政治家・尾崎行雄(おざき ゆきお) が考案したというものです。
■ 憲法発布の祝賀で初めて使用されたとされる
明治22年(1889年)、大日本帝国憲法が発布された際、華やかな祝典が全国で行われました。
その東京での中心行事において、尾崎行雄が
「国民が一致して祝意を示すための動作」 として、
両手を高く挙げる万歳三唱を提案した、と伝えられています。
■ なぜ両手を挙げる動作が採用されたのか
尾崎がこのスタイルを採用した理由には、以下のような意図があったと言われます。
- 大人数でも一体感が生まれる
- 視覚的に祝意が伝わる
- 力強く、華やかな印象を与える
- 儀式の動作として完成度が高い
声だけで祝意を示すより、動作を伴うほうが儀礼的な一体感を演出できると考えられたのです。
■ これが後の「万歳三唱」の基本形に
この時定められたスタイルは、皇室行事や国家的典礼の場に広がり、やがて全国へと普及していきました。
つまり、現代の「ばんざーい!」は、明治の儀式文化から派生したものなのです。
なぜ「三唱」なのか?
万歳を「三回」唱える――いわゆる 万歳三唱 の形式は、実は偶然ではなく、
日本文化の“3”という数字の持つ意味 と深く結びついています。
■ 日本では「3」は縁起の良い数字
日本の伝統・儀礼文化では、三度行うことが「一連の動作として最も整う」 とされてきました。
例としては、
- 神社の「二礼二拍手一礼」も、動作全体は三つのまとまりになる
- 大事な事柄は三度繰り返して強調する
- 祝詞(のりと)や朗読も三度唱える例が多い
-「三本締め」「三三七拍子」などの祝いのリズム
など、“3回”は日本人にとって節目・強調・完成を象徴する数なのです。
■ 儀式としての“区切り”を示しやすい
万歳は、祝賀の場で「ここから祝いのピークです」という合図にもなります。
その際、1回では短すぎ、2回では締まりが悪い。
3回の繰り返しが一番、儀式としてバランスよく収まるため、自然と形式化していきました。
■ 明治期の式典でも「三唱」が最も整っていた
明治時代の国家儀礼では、動作・言葉・礼法の整合性が重視されていました。
その中で、
「ばんざい、ばんざい、ばんざい」
と三回繰り返す形は、
- 収まりが良い
- 大人数が合わせやすい
- 祝意が伝わりやすい
という理由から、定式として採用されていきました。
こうして、万歳三唱は “儀式として美しく、区切りがよく、意味のある形式” として定着していったのです。
万歳三唱が民間へ広まった理由
万歳三唱はもともと皇室行事や国家的典礼で使われていた儀式的な作法ですが、明治・大正・昭和を通して、次第に一般の人々にも広まっていきました。
その背景には、当時の社会情勢や教育制度の変化が大きく関係しています。
■ ① 国家行事で頻繁に行われ、国民の目に触れたから
大日本帝国憲法発布以降、皇室の祭典・パレード・祝典では、国を挙げて万歳三唱が行われるようになりました。
新聞や雑誌でも大きく報道され、「お祝い=万歳」というイメージが国民の間に自然と広がっていきます。
■ ② 学校教育を通して全国へ広がった
明治以降の学校では、皇室儀礼や祝賀式典の作法を学ぶ機会が多く、児童・生徒は式典で必ずのように万歳三唱を体験しました。
学校教育は地方にも均等に広がったため、万歳三唱という文化が全国的に浸透する大きな要因となりました。
■ ③ 地域の祝賀会・式典でも採用された
大正・昭和初期になると、
- 村や町の祝賀会
- 開通式や落成式
- 勝利祝賀
など、公的な行事でも「万歳三唱」が“正しい祝い方”として採用されます。
大勢で声を揃えられるため、場の一体感をつくりやすい という点も、広く受け入れられた理由の一つです。
■ ④ 戦後も日常の祝い事として定着
戦後、国家儀礼としての意味合いは薄れたものの、万歳三唱は「みんなで喜びを分かち合うシンプルなジェスチャー」として定着し続けました。
- 結婚式
- スポーツの優勝
- 子どもの行事
- 誕生日のサプライズ
など、政治色や儀礼色が薄まったことで“気軽に盛り上がれるお祝いの掛け声”に変化していったのです。
■ まとめ
万歳三唱が民間に広まったのは、国家的儀式 → 教育 → 地域行事 → 日常生活という段階的な浸透によるもの。
明治の式典で生まれた形式が、今日の誰でも知っている「ばんざーい!」へと姿を変えていったのです。
現代の「ばんざーい!」の意味と使われ方
現代の「ばんざーい!」は、もはや明治期の儀式的な万歳三唱とは大きく意味が変わり、
“みんなで喜びを分かち合うための、カジュアルなお祝い表現”
として定着しています。
■ ① 儀式的な意味より「喜びの共有」が中心に
もともとの万歳は「長寿・繁栄を祈る敬意の言葉」でしたが、現代ではその要素は薄れ、場を盛り上げたり、歓喜を表現したりするための掛け声としての性質が強くなりました。
両手を高く挙げる動作は、明治の式典にルーツを持ちながらも、いまではほとんどの人が自然に行う“喜びのポーズ”となっています。
■ ② 身近な場面での利用例
今の日本では、さまざまな日常場面で「ばんざーい!」が行われます。
- 誕生日のサプライズで
- 子どもの運動会・発表会で
- スポーツチームの優勝・勝利で
- 結婚式やお祝いのスピーチ後に
- 何かが成功した瞬間に
このように、年齢や場面を問わず使える“万能の喜び表現”として親しまれています。
■ ③ 子どもの頃から自然と身につく文化に
幼稚園や学校のイベントでも「ばんざーい!」を行うことが多く、子どもたちは遊びの延長でこの動作と掛け声を覚えていきます。
このため、現代の日本人にとって万歳は、特別な儀式ではなく、日常の喜び表現として自然に身につく文化となっています。
■ ④ 海外との違い
海外には歓声や拍手はありますが、両手を挙げて“ばんざーい”と声を揃える文化は日本特有です。
この点も、明治時代に形式化された万歳がそのまま日本文化として根付いた象徴といえるでしょう。
■ 現代の万歳とは?
まとめると、現代の「ばんざーい!」は
- 歴史的には儀式の一部だったが
- 現在では“みんなで喜ぶためのシンプルな表現”へ変化し
- 子どもから大人まで広く使われる日本固有の文化
と言えます。
万歳と文化の関係
万歳は、日本の祝賀文化の中で独自に発展してきた表現方法です。
単なる掛け声以上に、“日本らしさ”や“共同体としての感情共有” を象徴する重要な文化的意味を持っています。
■ ① 万歳は「共同体の一体感」をつくる文化装置
両手を挙げて声を揃えるというシンプルな動作は、大人数でも一瞬で「同じ気持ちになる」ことができる点が特徴です。
- 子どもの行事
- 地域のお祝い
- 職場のイベント
- スポーツの優勝記念
どんな場面でも、万歳を声にすることでその場にいる人々の感情がひとつになる効果があります。
これは、日本文化が重視する「和」や「共感性」にも通じる価値観です。
■ ② 日本特有の“儀礼から日常への転化”
万歳は、もともと明治の国家儀礼として始まりましたが、戦後は宗教色や政治色が大きく弱まり、日常のあらゆる祝い事へ柔軟に溶け込む文化へ変化しました。
これは、日本でしばしば見られる
「格式高い儀式が、生活文化として一般化していく現象」
の一例でもあります。
例:
- 正月のおせち料理
- 七五三
- クリスマスイベント
もともとは儀式性が強かったものが、時代とともに家庭内に取り込まれ、カジュアルに楽しまれる行事へと変わっています。
万歳もその流れの中に位置づけられます。
■ ③ 世界にはほぼ類例がない、日本独自の祝賀動作
海外では、歓喜の表現は
- 拍手
- ハグ
- 雄叫び
- 口笛
- 乾杯
が中心ですが、“両手を挙げて統一の掛け声をする”という文化はほぼ日本だけのものです。
万歳は、「喜びの言葉」+「統一された動作」がセットになった珍しいタイプの祝賀法であり、まさに日本独自の文化的パフォーマンスといえます。
■ ④ ポジティブな意味に再解釈され続けている
万歳は時代背景によって意味が変化しつつも、常に「前向きな感情を表す言葉」として受け継がれてきました。
- 長寿の祈り
- 国民的祝賀
- 地域のお祝い
- 家庭の喜び
このように、どの時代でも“幸福の象徴”として人々に使われ続けてきた言葉であることは変わりません。
FAQ(よくある質問)
Q1. 万歳は「ばんざい」と「ばんぜい」どちらが正しいの?
現在の日常表現としては「ばんざい」が一般的です。「ばんぜい」は古い表記で、祝語として漢文的に使われていた名残です。意味は同じですが、現代では「ばんざい」を使えば問題ありません。
Q2. 万歳はなぜ三回なの?
日本では「3」が縁起の良い数字で、儀式や祝賀の区切りとして最も収まりが良いとされてきました。その伝統が受け継がれ、万歳も自然と三唱が定着しました。
Q3. 両手を挙げる万歳は世界にもあるの?
似た喜びのポーズはありますが、声を揃えて両手を挙げる「万歳」という文化は日本独自のものです。海外では拍手やハグなどが一般的です。
Q4. 万歳三唱は誰が始めたの?
明治の政治家・尾崎行雄が、憲法発布式典の際に提案したという説が広く知られています。そこから式典に定着し、やがて一般にも普及しました。
Q5. お祝いの場で万歳以外の表現でもいいの?
もちろん問題ありません。拍手だけでも十分喜びは伝わります。ただ、万歳はその場の一体感を作りやすく、“みんなで喜びを共有したいとき”には特に効果的です。
Q6. 万歳って縁起が悪い意味はないの?
ありません。元々は長寿と繁栄を願う非常に縁起の良い言葉で、ネガティブな意味はありませんので安心して使えます。
まとめ
万歳は、もともと長寿や繁栄を願う格式ある言葉でしたが、明治以降に万歳三唱として形づくられ、いまでは喜びを分かち合う日常的な表現として親しまれています。
歴史や背景を知ることで、普段の「ばんざーい!」にも少し違った深みが感じられるはずです。
もしお祝いの場で万歳をすることがあれば、ただ盛り上がるだけでなく、“幸せが続きますように”という本来の願いも込めてみてください。
言葉に込めた気持ちが、その場の空気をより温かくしてくれるでしょう。




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